婦人科系の疾患を治療するためにさまざまな薬が使われますが、そのなかの一つに「ホルモン剤」があります。
ホルモン剤という言葉を聞いたことはあっても、どのような薬なのかは、意外と知られていないようです。
今回はそんな不安を払拭するために、ホルモン剤の効果や種類、どんな治療で使われるのかなどについてまとめました。
女性用のホルモン剤とは「エストロゲン(卵胞ホルモン)」と「プロエストロゲン」を人工的に生成して配合された薬です。
排卵前に分泌量が増えるエストロゲンは、卵胞と子宮内膜の成長を促す働きがあり、排卵後に分泌量が増えるプロゲステロンは子宮内膜の厚みを維持する働きがあります。
女性ホルモンは生理や妊娠といった、女性特有の体の変化をコントロールしています。分泌バランスが崩れるとさまざまな不調をきたすこともあり、女性にとって大切なホルモンです。
分泌バランスが崩れたことによるカラダの不調を整えるのが、ホルモン剤の役割です。主に婦人科系の疾患を治療するための「ホルモン療法」で、ホルモン剤が使われます。
最もよくみられるのが、生理不順や月経前症候群、更年期障害など、生理周期にかかわる体の不調を改善するためのものです。
また、子宮筋腫や子宮内膜症、子宮癌・乳癌といった疾患、不妊症などの治療にも使われます。
不妊治療におけるホルモン治療の役割は、ホルモン剤を用いて体内のホルモンバランスを調整し、より妊娠しやすいカラダに近づけることです。
【主なホルモン治療】
① 排卵障害の治療
排卵が見られない場合、排卵をおこすために排卵誘発剤が使われますが、症状が比較的軽症の場合は、「クロミフェン製剤」や「シクロフェニル製剤」などの内服薬で排卵を促します。
この方法でも排卵がみられない場合、あるいは症状が重症の場合には、さらに強力な「hMG製剤」「FSH製剤」「hCG製剤」と呼ばれる注射を使って排卵を促します。
② 着床障害の治療
黄体機能不全など、黄体ホルモンの分泌が不十分な場合、「黄体ホルモン製剤」(内服薬・注射・膣座薬)を投与し、子宮内膜を整えるなど着床率を上げるために用います。
③ 子宮内膜症の治療
不妊症の原因の一つである子宮内膜症は、エストロゲンの分泌によって進行するため、エストロゲンの分泌を抑制する「GnRHアゴニスト製剤」や「ダナゾール製剤」を投与することで症状を抑えます。
④ 造精機能障害の治療
男性の精子数や運動率が悪い場合、ホルモン治療がおこなわれます。
「男性ホルモン製剤」で直接男性ホルモンを補充するほか、男性ホルモンの分泌を促すために、女性の治療にも使われる「クロミフェン製剤」「hMG製剤」「hCG製剤」などを用います。
⑤ 卵胞・黄体ホルモン剤(無排卵状態をつくり卵巣を休ませる)
無排卵の状態をつくり、卵巣を休ませるときに使います。避妊薬のピルも卵胞・黄体ホルモン剤の一つで、月経不順や月経前症候群(PMS)などの治療にも投与されます。
ピルの服用でエストロゲンやプロゲステロンを増やし、脳を「妊娠した」と勘違いさせ、体内でのホルモン分泌をストップさせる効果があります。
ホルモン剤は即効性の高さなどから、不妊治療において非常に重宝されていますが、強力な作用ゆえにさまざまな副作用をともなうことがあります。
排卵誘発剤による代表的な副作用が卵巣過剰刺激症候群(OHSS)です。
卵巣が過度に刺激されることにより卵巣が腫れ、胸水や腹水がたまる場合などもあり、軽度であれば安静にしておくことで回復しますが、重症になると入院が必要な場合もあります。
内服薬ではあまり見られませんが、注射剤のhMG剤やhCG剤によって起こることがほとんどです。
卵巣が腫れたままの状態では、当然不妊治療も休まなければいけません。
他のホルモン剤でも、多胎妊娠、頭痛、吐き気、不正出血、骨粗しょう症、肩こり、ほてり、食欲不振、脱毛、じんましんなどなどの症状があらわれることもあります。
程度の差があるとはいえ、副作用によってストレスがたまります。
ストレスからホルモンの不調を招き、精子や卵子の質の低下を招き治療効果が下がる可能性もあるので、我慢せずに、症状がひどい場合は、担当医に相談しましょう。
ホルモン剤は体内のホルモンバランスを直接変化させるため、効果が高い反面、副作用などが強く現れることもあります。
しかし、用法・用量を守って正しく使えば、女性特有の悩みや症状を緩和してくれる強い味方となります。
ホルモン療法とは、不妊の原因を取り除く治療ではなく、ホルモン剤によってホルモンのバランスを整え、妊娠しやすいカラダにする事が目的です。
ですから、少しでも違和感や異変に気づいたら、早めに担当医に相談をして、服用を中止するか薬を変えるなどの対処してもらいましょう。