妊活中、インフルエンザの流行期に突入してしまったら…?
妊娠中はただでさえ体力が低下する時期であり、重症化しやすいインフルエンザはかかる前に予防することが重要です。
そこで気になる、インフルエンザ予防接種の必要性と安全性についてお話します。
インフルエンザの流行する季節、感染せずに乗り切れるか不安に思う妊婦さんも多いのではないでしょうか。
予防のためにまず行うべきことは、手洗い・うがいを徹底する、なるべく人混みを避ける、外出時はマスクをするといった基本的な対策です。
そして、ぜひワクチンによる予防も取り入れたいところ。
インフルエンザワクチンによって起こり得る副作用には接種部位の痛み・腫れ・赤みの発生や、発熱、頭痛、悪寒などがありますが、妊娠中に接種しても胎児に重大な影響をを及ぼすことはないと考えられています。
ただし、日本で作られているインフルエンザワクチンは、ニワトリの卵を利用して作られています。
ワクチンに含まれる卵成分はごく微量であり卵アレルギーの人でもほとんどの場合安全に接種できますが、中にはアレルギー反応を起こしてしまうケースもあり得るため、お医者さんに相談すると安心です。
私たちの体は、自分の体内にある細胞やタンパク質などが自分のものであるかそうでないかを認識し、自分以外のもの(=異物)であると判断した場合はそれを排除するように働きます。
これが「免疫」というシステム。
お腹にいる赤ちゃんの遺伝子はお母さんと完全に同じではないため、その結果作り出されるタンパク質、つまり胎児の体は、母体にとって「異物」とみなされます。
胎児が異物とみなされて母体から排除されることのないように妊娠後に起こる変化が、「免疫のレベルを下げる」ということ。
免疫のレベルを下げると外からのウイルスや細菌も受け入れやすくなることになるため、このような変化が感染症にかかりやすい状態になる一番大きな原因と考えられています。
ワクチンは、大きく分けて不活化ワクチンと生ワクチンに分類されます。
・不活化ワクチン…感染する能力を失わせたウイルスや細菌を原材料として製造され、体内で増殖しない。
(例)インフルエンザワクチン
・生ワクチン…病原性を失わせながらも感染力は残してあるウイルスや細菌が原材料であるため、体内で増殖する。
(例)麻疹ワクチン、風疹ワクチン、BCG(結核予防)
このうち、特に注意したいのが麻疹と風疹です。
麻疹は、妊娠中に感染すると母体が重症化しやすく、さらに胎児の早産・流産を引き起こす可能性があります。
そして風疹は、胎児に感染すると出生後に難聴、白内障、心臓病、体や心の発達の遅れを引き起こす可能性が。
この「先天性風疹症候群」は、妊娠12週まではそのリスクが特に高くなることが分かっています。
風疹・麻疹のワクチンは体内で増殖するものの感染性はないとされ、風疹ワクチンについてはそれが原因で胎児に影響があった例は報告されていません。
しかし万が一を考えて、接種は非妊娠時に行い、接種後は2ヶ月間の避妊が必要とされています。
インフルエンザワクチンは不活化ワクチンであり、妊娠中のどの時期に使用しても胎児に影響を及ぼしたり流産や早産のリスクを高めることはないとされています。
インフルエンザワクチンには水銀化合物の1つであるチメロサールが含まれていることがあります。
水銀と聞くと心配に思われるかもしれませんが、現在は減量または添加しないワクチンが増えており、含まれている場合でもその量はごく微量のため胎児に影響を与えることはないとされています。
その上で、妊娠していると申告すればチメロサールを含まないワクチンを接種してもらえるのでご安心を。
※以前、自閉症を引き起こすとの報告がされたことがありましたが、後にその報告は捏造されたものであったことが判明しています。
したがって、現在は自閉症との関連は否定されています。
ウイルスが体内に侵入して免疫システムが働くと、ウイルスに対する抗体が作られます。
ある種の抗体は血液の流れに乗って胎盤を通って胎児に到達し、胎児の体内で、また接種時期によっては出生後においても抗体として効果を発揮します。
つまり妊娠中にインフルエンザワクチンを接種すると、赤ちゃんも生まれた時点ですでにインフルエンザに対する免疫を持っていることに。
実際、妊娠中にインフルエンザワクチンを接種したところ、生まれた赤ちゃんの生後6ヶ月までのインフルエンザにかかるリスクが70%減少したと報告されています。
男性が予防接種を受けたことで精子に異常が出るリスクが上がるという研究結果はありません。
そのため、男性がインフルエンザをはじめとするワクチンをうつことは、妊活中であっても問題ないとされています。
なお、女性はワクチンの種類によっては接種後避妊期間が必要となりますが、男性の予防接種については避妊期間はありません。
インフルエンザ予防接種で期待できるのは重症化を防ぐこと。
予防接種をうけても感染する可能性があります。
それでも、パートナーである男性が万が一感染しても軽度で済めば、妊婦に感染させる可能性を減らせます。
効果が期待できるのは接種後2週間~5ヶ月程度と、何年も持続するものではありません。
またインフルエンザには複数の種類があり、毎年流行する型が異なるため、その年に流行すると予想される型に対応したワクチンを製造しています。
したがって、過去にインフルエンザ予防接種を受けたことがあっても、流行期ごとに接種を受ける必要があります。
麻疹・風疹が胎児に与えうる影響について先ほど記しましたが、もしパートナーの男性がこれらに感染すると、妊娠中の女性にうつしてしまう可能性が高まります。
麻疹・風疹ワクチンは、妊活中または妊婦と生活をともにする男性であればぜひ受けておきたい予防接種です。
これらのワクチンは、一度免疫がつけば長い期間(数十年以上)効果が持続するとされています。
ただ、親や周囲の人から「麻疹や風疹にかかったことがある」または「ワクチン接種をした」などと言われていても、記憶違いというケースも多いもの。
確かに診断されたと判明している、またはワクチン接種記録がある場合以外は、免疫の有無を検査したり、ワクチン接種を受けた方が安心でしょう。
免疫力低下によりインフルエンザに感染しやすいことに加え、妊娠中のインフルエンザ感染で問題となるのは「重症化しやすい」という点。
なぜ重症化するのかの原因は判明していないものの、インフルエンザの場合、妊娠の後期になるほど重症化しやすくなるとされています。
世界保健機関(WHO)は、妊娠中にインフルエンザに感染すると非妊娠時と比較して集中治療室に入る確率が10倍ほどになり、28週以降ではとくに注意が必要だと発表しています。
双極性障害とは、躁状態とうつ状態を繰り返す、いわゆる躁鬱病と呼ばれる精神疾患です。
アメリカで行われた調査では、妊娠中にインフルエンザに感染した場合と感染しなかった場合を比較すると、赤ちゃんが双極性障害になるリスクが前者では後者の3.8倍にものぼりました。
なかでも妊娠中期~後期にかけて特にリスクが高く、妊娠後期にインフルエンザに感染した場合には双極性障害を発生するリスクが5倍に高まったのだそう。
双極性障害は遺伝するケースもあると考えられています。
しかしこの調査では、母親のインフルエンザ感染が子の双極性障害に関連すると認められた92人の子ども達のうち、77人は親からの遺伝として双極性障害となったとは考えられないとされています。
なお双極性障害との因果関係はインフルエンザ以外の風邪や副鼻腔炎などでは見られなかったことから、やはりインフルエンザの感染が引き金となる可能性が高いと考えられています。
もしも妊娠中にインフルエンザにかかってしまったときは、薬による治療が可能です。
発症してから48時間以内に薬を使うことで、重症化を抑える効果が期待できます。
治療薬としてよく使われるのは、飲み薬のタミフルと吸入薬のリレンザです。
妊娠初期にタミフルを服用して出産に至った例を調べたところ、先天異常をもって生まれた赤ちゃんの比率は服用していない場合と比べて変わらなかったことが報告されました。この結果から、現時点ではタミフル服用が胎児に影響を与える可能性は低いと考えられています。
口から吸い込んで呼吸器に直接作用させるため、飲み薬とちがって、血流に乗って全身を回る量は微量です。そのため、妊娠中にリレンザを使用しても胎児に影響を及ぼすことはないと考えられています。
ワクチンによる副作用や胎児への影響を必要以上に恐れる必要はありません。
適切な時期にインフルエンザワクチンを接種することで、母体と胎児の感染によるリスクを減らせるのはもちろんのこと、生まれてきた赤ちゃんの健康を保つ手助けにもなります。
感染症の予防には、妊婦本人の取り組みに加えて周りの人の理解と協力も大きなポイントに。
パートナーと一緒に正しい知識をもって、妊娠時期を無事に乗りきりたいものです。