不妊治療の中でも妊娠の可能性が高い体外受精。
その治療法の中でもショート法、ロング法、アンタゴニスト法と3つの方法に分けられます。
ロング法は一般的に多く行われている方法です。
今回は体外受精のロング法について、治療の方法と流れを解説していきます。
体外受精の誘発方法のひとつであるロング法は、排卵誘発剤の投与の期間が長い治療方法です。
ロング法のスケジュールはどのようなものなのでしょうか。
それでは、ロング法の流れについて詳しく見ていきましょう。
第一に、前周期の残卵胞を卵巣から排卵させないようにするために排卵を抑えるピルの服用から治療が始まります。
残卵胞とは、通常排卵された卵子以外の卵胞は黄体となり消滅しますが、消滅せずに残った卵胞のことをいいます。
つまり、排卵せずに卵巣に残った「卵子の抜けがら」であり、もし排卵したとしても受精の可能性のないものとなります。
卵巣内に残卵胞がある場合、次の周期の卵胞よりも先に卵巣内に残っていた残卵胞が早く成長をします。
そして体外受精に使用する卵胞を採取する際、成長した受精の可能性のない残卵胞も一緒に採取されてしまいます。
それゆえに、質の良い卵子を包んだ卵胞の採取率が減ってしまうことになり、受精の成功率を下げることになります。
受精の成功率をあげるためには、卵巣内にある残卵胞は排卵しないようにすることが重要です。
前周期にピルを使用することにより、残卵胞を含む卵胞の排卵を抑えます。
そして次の周期の排卵日には均一なばらつきのない成熟度の卵子をしっかりとつつんだ卵胞の回収率を上げるのです。
そして受精の成功率を高くします。
前周期の高温期の半ばから、アゴニスト点鼻薬を次の排卵日まで休むことなく続けます。
アゴニスト点鼻薬は、下垂体から分泌されるFSH(卵胞放出ホルモン)とLH(黄体形成ホルモン)のふたつのホルモンを調整する作用のある薬であり、使用には二つの目的があります。
ひとつ目は黄体形成ホルモン(LH)の分泌を抑え、卵胞が自然に育たないようにします。
よって、不ぞろいな卵胞が育つことがなく、安定した均一の卵胞の成長のために役立ちます。
ふたつ目は、FSH(卵胞放出ホルモン)を抑制し、次の周期の排卵、つまり体外受精のための卵子を採卵する前に勝手に排卵することを防ぎます。
つまり、自然な排卵を抑制することで、より受精しやすい卵子の排卵のために調整する役目があります。
アゴニスト点鼻薬で自然な排卵を抑制している間に、FSHという卵胞を育てる働きを促す注射を打ちます。
注射は月経開始の5日から7日前から6日から10日間、毎日打ち続ける必要があります。
通常投与量は最初150IUから始めますが、反応が悪い場合には300IUまで増やします。
また、年代や卵巣の機能の状態によって投与量を調整することもあります。
FSHが高すぎると、逆に卵胞の成長がうまくいかなくなります。
その場合にはHMGという同じく卵胞を育てる注射を使用しますが、HMG注射は体が慣れてしまうと、少量では効果がなくなっていき、薬の量がふえていく可能性があるので、医師とよく相談しながら注意して使用をしていきます。
FSHやHMG注射の役割は、卵巣を刺激して複数の卵子を均一に成長させることです。
自然な卵の成長よりも、安定した数の卵胞を確保することができるため、体外受精の成功率が上がります。
排卵をしたら卵子の採取が行われ、採取後から2週間にわたり黄体ホルモンの投与を行い補充をします。
通常、排卵後には排卵した卵胞が黄体化するタイミングで、子宮内膜の状態を整える働きの黄体ホルモンが分泌されます。
子宮内膜の状態が悪いと、着床がしにくくなるうえに、着床しても妊娠の継続が難しくなります。
FSHまたはHMG注射の注射で卵巣の刺激をした場合、黄体ホルモンの分泌機能が低下している状態にあります。
また、自然な排卵ではなく注射針による採卵のため、卵子だけでなく黄体ホルモンが発生する細胞も吸い出してしまうので、さらに黄体ホルモン不足を招くことになります。
よって、受精が成功した際に受精卵を着床しやすくし、妊娠を継続させるためにも黄体ホルモンの補充が不可欠となります。
投与には、内服薬や筋肉注射、膣座薬などの方法を用いて行います。
長いスケジュールでの治療であるロング法ならではのメリットを解説します。
前周期の段階から排卵を抑制するピルと、アゴニスト点鼻薬を使用することにより、排卵日のコントロールがしやすくなります。
よって、体外受精のスケジュールがたてやすくなります。
体外受精はパートナーとの協力が必要なため、スケジュールがたてやすいことによって治療をスムーズに行うことができます。
FSHやHMG注射によって、複数の卵胞が均一に成長するので、体外受精に必要な採卵できる卵胞の数が多くなります。
採卵にはある程度成熟した卵子を採取するため、同じ成熟度の卵子が多いとその分採卵する数も多くなり、受精の確率が上がります。
ピルやアゴニスト点鼻薬、FSHやHMG注射を使用して卵胞の成長と排卵の調節を行うため、自然な排卵が起こる心配がありません。
自然な排卵では体外受精の成功率が低くなります。
勝手に排卵が行われてしまい採卵ができず体外受精のスケジュールが乱れたり、採卵時に残卵胞が排卵されてしまうことや、卵子が不ぞろいに成長して採卵量が少なくなることがなくなります。
よって、受精しやすい卵子をスケジュール通りに複数個、採取しやすくなり成功率が上がります。
ロング法は成功の確率が高い分、注意しなければいけない点がいくつかあります。
前周期から避妊の必要があります。
前周期の高温期の半ばから使用するアゴニスト点鼻薬は、胎児に影響を及ぼす可能性のある薬剤です。
具体的な胎児へのリスクは、妊娠初期の流産の可能性が高くなることです。
アゴニスト点鼻薬は子宮内膜の状態を整える働きをもつ黄体ホルモンを抑制するため、妊娠を継続しにくい身体へとなっています。
よって、アゴニスト点鼻薬の投与期間にもし自然妊娠してしまった場合の初期流産のリスクを避けるために、前周期には必ず避妊をすることが重要です。
卵巣を刺激する排卵誘発剤を長期にわたり多く使用するため、卵巣過剰刺激症候群になる可能性が高いです。
とくにFSHやHMG注射は高刺激に分類される排卵誘発剤であるため、発症の可能性がより高くなります。
卵巣過剰刺激症候群とは、卵胞が過剰に発育することにより、卵巣が腫れることで起こる疾患です。
症状は、下腹部痛や吐き気、嘔吐など。お腹に水がたまる腹水や胸に水のたまる胸水を引き起こしやすく、また血液の濃縮による血栓症と重症化してしまう場合もあります。
ロング法は卵巣機能が一定以上に保たれている方に適した治療法です。
よって、高齢で卵巣機能が低下している人には向きません。
卵巣機能の低下により、FSHの過剰分泌がおこり、卵子が育ちにくくなります。
また、卵巣から出ているホルモンのAMH値や、卵胞の数が一定である37歳以下の若い人には適していますが、高齢の方は一定のラインを下回っている場合が多いです。
AMI検査は、卵巣から出ているAMH(高ミュラー管ホルモン)というホルモン検査で、これから先に排卵があとどれくらい続くかを測定することができます。
AMH値は1mlあたり1.4から4.0ng、卵胞の数は左右10個から20個ほどあればいいですが、若くても卵巣の機能が低下していて、このラインを下回っていれば受精成功の確率が低くなるため、ロング法には適しません。
前周期から治療を開始するため、治療期間が約2カ月と長くなります。
2カ月もの間、受診やアゴニスト点鼻薬や排卵誘発剤の投薬料、FSH/HMG注射などの処置料もかかるため、費用が高くなります。
特にFSHやHMG注射は、10日間毎日行う必要があり毎日通院しなければならず、その分費用の面で負担がかかります。
体外受精のロング法には妊娠の可能性が高いという最大のメリットがありますが、リスクや注意点などのデメリットもあることをしっかりと理解しましょう。
ロング法についての正しい知識をもち、パートナーや家族とデメリットの部分もきちんと話し合い、納得したうえで治療に臨みましょう。