不妊治療において日本でもすでに標準的な選択肢とされるhCG注射。女性ホルモンに直接はたらきかけ、排卵を促し、受精卵が順調に生育できるように体内環境をととのえます。不妊治療におけるhCG注射の意味と具体的な治療効果についてお伝えしていきます。
不妊治療を検討したことがある方なら、治療法としてhCG注射が選択されることを御存知の方も多いのではないでしょうか。hCG注射はただ単に排卵や着床を促すだけでなく、妊娠が成立したあとも受精卵が順調に育つように環境をととのえるはたらきがあります。hCG注射の具体的な意味について解説するとともに、hCG注射以外の不妊治療の選択肢についてくわしく掘り下げていきます。
不妊治療において高い効果があるとされ、日本でも標準的な選択肢として採用されているhCG注射。これから本格的な不妊治療を検討している女性にむけて、hCG注射にはどのような効果があるか、治療上気をつけるべきポイントは何か、ということについて解説させていただきます。
hCG注射を投与する目的として、排卵の促進と黄体ホルモンの補充があります。排卵を促進する薬剤はほかにもありますが、単純に排卵を促しても不育症をともなっている場合は受精卵をきちんと子宮内で発育させることができず、妊娠には結びつきません。
薬剤を投与後、24時間から36時間後に効果が表れはじめ、より重度の不妊症の場合にはhMG注射が併用される場合があります。
日本で使われているhCG注射にはふたつの種類があります。古くから用いられているのが「モチダ」で、妊婦の尿中から成分を抽出してつくられているため副作用が少なく、効果についてのデータも蓄積されていますが、筋肉注射によって投与されるため痛みが強いというデメリットがあります。
最近になって開発された「オビドレル」は遺伝子組み換え技術によってつくられた薬剤であり、シリンジタイプによる皮下注射のため比較的痛みが少なく、なおかつ治療効果も安定しています。
どちらの薬を用いるのかは担当医の判断によって決められており、妊婦の体質や体調、不妊のパターンなどを考慮したうえで治療プログラムが組み立てられます。
「不妊治療=体外授精」と考えている人も多いかもしれませんが、不妊治療のアプローチはひとつではありません。タイミング法から人工授精まで、hCG注射が必要となるプロセスについてくわしく解説していきます。
ほとんどの婦人科では、不妊治療のスタートラインとしてタイミング法を推奨しています。タイミング法においてhCG注射は排卵誘発剤の役割を果たし、薬剤の効果が表れるタイミングに合わせて性交渉を行うことによって自然妊娠をめざします。
hCG注射の効果が表れるのは投与してから24時間から36時間後であり、そのタイミングで性交渉を行うことで妊娠の可能性が高まると考えられています。
タイミングによる自然妊娠が期待できない場合は人工授精に移行することになります。人工授精では着床後にhCG注射を行い、黄体ホルモンを補うことで着床後も無事に受精卵が発育できるような環境をととのえます。
人工授精とは異なり、女性の体外で精子と卵子を受精させる体外授精。不妊症の女性の場合、排卵リズムが正常でない場合が多く、hCG注射によって排卵リズムをととのえることで体外授精を成立させやすくするねらいがあります。
体外授精では、取り出した卵子に精子をふりかけるかたちで受精卵をつくり、できた受精卵を子宮内に戻し、着床させることで妊娠をめざします。
体外授精では排卵誘発から妊娠の成立までに精子の抽出や濃度の調整などさまざまなプロセスがあり、少なくとも1年以上は定期的に通院する必要があります。
体外授精においては、「卵胞をいかに順調に発育させるか」ということがキーポイントになります。卵胞の発育にはFSHホルモンなどが用いられ、卵胞が無事に20㎜程度にまで成長した段階でhCG注射を行い、本格的な排卵を促して健康な卵子を抽出する準備をととのえます。
不妊治療が進むと、胚移植が視野に入れられる場合があります。胚移植後に正常な着床を促すためにはhCG注射が効果的とされており、不足している黄体ホルモンを補充することによって着床後も卵子が健康な受精卵として発育する環境をつくっていきます。
排卵を自然に促し、女性ホルモンにはたらきかけてくれるhCG注射ですが、治療薬である以上一定の副作用があり、使用にあたっては担当医の指示をきちんと守る必要があります。
hCG注射の副作用として懸念されるのは「卵巣過剰刺激症候群(OHSS)」です。卵巣が過剰に刺激されることによって発熱や吐き気、めまいなどが誘発され、妊娠そのものが成立しない場合もあります。
不妊治療中にこれらの副作用が表れた場合にはたとえ軽症でもただちに担当医に報告し、治療薬を切り替えるようにしましょう。
hCG注射によってOHSSが誘発されると、妊娠初期によく似た症状が表れることがあります。とくに、倦怠感や軽い吐き気などは妊娠初期によく見られる症状であり、妊娠したと勘違いして治療をやめてしまうケースも少なくはありません。
OHSSと本当の妊娠を正しく見きわめるためにも定期的に通院し、卵胞や子宮の状態をこまめにチェックするようにしましょう。
hCG注射のすぐあとに妊娠検査薬を使うと、試薬がhCGに反応してしまい、妊娠していなくても陽性反応が出てしまいます。
いわゆる偽陽性であり、これでは妊娠検査薬を使う意味がないため、hCG注射の効果が重複しない7日~10日後に検査薬を使うようにしましょう。
不妊治療というと日本ではまだまだハードルが高い治療法に思われているかもしれませんが、hCG注射以外にも安全な治療法が確立されており、一般的な選択肢になりつつあります。hCG注射の効果と意味を充分に理解したうえで、不妊治療のアプローチについて考えていきましょう。