分裂を始めた受精卵、胚が子宮の一部に定着する現象を「着床」と言います。
無事着床することが、妊娠への第一歩となるわけですが、では受精から妊娠成立までに、体の中では一体なにが起こっているのでしょうか。
着床後に現れる症状や起こり得る体の変化、そして妊娠確定までに日常生活で注意すべき点について詳しく見ていきましょう。
着床すると妊娠成立ということは分かりますが、いつどのタイミングで、どのようにして起こっているのかはよく知らないことも。
妊娠を希望しているなら、着床の仕組みを知っておいて損はありません。
着床した場合に現れる体の変化や、妊娠が確定するまでに気を付けるべきことも一緒に把握しておきましょう。
排卵、受精、着床。それぞれがどこでどのように起こっているのか、詳しくみていきます。
個人差はありますが、月経が標準的な28日周期である場合、次の生理予定日のおよそ13日前に排卵が起こります。
排卵とは、卵巣の中でいくつかの卵胞が成熟し、そのうちの1つから卵子が排出されることをいいます。
月経開始から成熟がスタートし、約2週間経つと排卵を迎えます。
卵胞を飛び出した卵子は、卵管の先端の卵管采(らんかんさい)にキャッチされ、卵管へ移ります。
卵管内の卵管膨大部と呼ばれる、少し広めの部屋のような場所で精子を待ちます。
卵子の寿命は排卵から12~24時間といわれています。
一度の射精によって放出される精子は、数千万~数億匹。
子宮にたどり着くのはその10分の1~100分の1といわれます。
そして卵管に到達して、排卵された卵子と卵管膨大部で出会うのは、わずか60~200匹です。
そこからたった1つの精子が、卵子と受精して受精卵となります。
卵子の表面を覆う膜を突破するには、精子の頭部に備わる酵素が必須です。
数十~数百匹の精子が一斉に酵素を使い突入を試みて、幸運な1匹だけが卵子内部に侵入できます。
1匹が入った瞬間に卵子にはバリアが張られ、他の精子は侵入できなくなります。
精子の寿命は射精から3日ほどです。
卵子の寿命も考えると、受精が成立するのは奇跡に近い確率といえます。
受精すると数時間かけて卵子と精子の遺伝子が融合し、受精が成立します。
およそ1日後に細胞分裂が始まり、受精卵は胚(はい)となります。
卵子か精子に遺伝子異常があるなど、何らかの原因で分裂が途中で止まってしまうケースもあります。
そうなると着床しなかったり、着床したとしても成長が止まってしまい、正常な妊娠成立とはなりません。
卵管で受精した受精卵・胚は分裂を続けながら、卵管内を移動していきます。
1~2日で初期胚、3~4日で桑実胚(そうじつはい)、5~6日で胚盤胞(はいばんほう)と呼ばれるステージに成長し、子宮へ到達します。
胚が卵管を移動している間に、子宮では着床の準備が進められています。
着床に最適な環境になるのは排卵後5~7日後とされているため、胚の子宮への到着が早すぎても遅すぎても、着床率は下がるといわれます。
細胞分裂を繰り返して胚盤胞となった胚が子宮にたどり着いた後、数日間は子宮腔内に浮かんでいます。
そして子宮内膜に付着して中へ潜り込み、根を張って着床となります。
排卵から数えると、早くて7日後、遅くて10日後が妊娠成立です。
着床が完了しても、体が妊娠反応を示すのはさらに数日後です。
妊娠週数は前回の生理開始日から数えるため、着床成立の時点ですでに妊娠3週になっています。
胎児の元になる細胞・胎芽(たいが)を包む楕円形の袋を、胎嚢(たいのう)と呼びます。
妊娠5週後半になると、超音波検査で子宮内に胎嚢が確認できるようになります。
このときの大きさはおよそ1センチです。
この胎嚢確認を経て、正常妊娠の成立となります。
標準的には、胎嚢は1日約1ミリずつ成長し、妊娠6週頃にはおよそ2センチになり、心音が確認できるようになります。
多くの場合、この時点で母子手帳の交付となります。
妊娠を望むなら押さえておきたい知識ですね。
是非、毎日の生活の中で実践していきましょう。
妊娠するためには、健康な体作りが重要です。
食生活を見直し、着床しやすい体内環境を整えましょう。
葉酸は、子宮内膜を厚く柔らかくして着床をサポートする働きがあります。
「幸せホルモン」の別名を持つエストロゲンの材料にもなり、ストレスの軽減効果があるとされます。
妊娠を希望する女性は、通常の1日の推奨摂取量の他に、400マイクログラムをプラスして摂取するのが望ましいと、厚生労働省が推奨しています。
着床を助けるホルモン、プロゲステンの原料になるのがビタミンE。
排卵を促す働きのほか、血行促進作用や乱れがちなホルモンバランスの調整作用、卵子の老化を防ぐ抗酸化作用もあります。
ほかにも、卵子の成熟をサポートし着床率を上げるとされるビタミンD、受精卵の正常な細胞分裂を助ける亜鉛、イライラを緩和するカルシウムなど、妊活中には積極的に摂取したい栄養素が数多くあります。
ただ、ビタミンAは摂りすぎに注意。
妊娠初期に過剰摂取すると奇形の発生率が上がるとされています。
毎日の食生活を見直し、栄養素の1日の上限許容量を考慮しつつ、サプリメントも適宜取り入れてみてください。
ただし栄養ドリンクは、カフェインが大量に含まれていることが多いので要注意です。
ストレスを感じると、自律神経の働きに異常が出ます。
自律神経とは本人の意思とは無関係に動いている神経のことで、内臓を動かしたり代謝を行ったりする、生命維持に不可欠な機能です。
ホルモンの分泌にも自律神経が需要な役割を担っており、妊娠とホルモンは深く関係しています。
女性の体内では、2種類の女性ホルモンが交互に分泌量を増減しながら妊娠するための環境を作っていますが、特に黄体ホルモンの分泌が不十分だと妊娠率が低くなることがわかっています。
ストレスを溜めない生活を心がけると、自律神経が整ってホルモン分泌が正常に近づき、妊娠しやすくなります。
好きなことに没頭したり軽い運動で体を動かしたりして、気持ちを軽く保ちましょう。
冷えは妊娠率低下の原因の1つです。
特に下半身を温めて血流をよくすると、子宮や卵巣の機能を向上させる効果があるとされています。
ぬるめのお風呂にゆっくりつかる、白湯を飲む、夏でも靴下を履く、膝掛けを利用する、冷房の風に直接当たらないなど、できることはたくさんあります。
ストールなどを利用して首を冷やさないようにするだけでも随分違います。
体を外からも中からも温めてあげましょう。
激しすぎる運動は避けるべきですが、体を軽く動かすことは血行促進やストレス発散の点で有益です。
血流がよくなると、子宮や卵巣に常に新しい血液が送られ、代謝が進み、良質な卵子や子宮内膜の成熟につながります。
ストレッチやヨガ、軽めのウォーキングなど、負荷の少ない有酸素運動にチャレンジしてみましょう。
注意点は、あまり熱心になりすぎないこと。すべて無理のない範囲で行うことが大前提です。
着床したときに、自覚できる症状はあるのでしょうか。
胚が子宮に着床する際、根を張って子宮内膜に定着するため、小さな傷が付き出血することがあります。
これを「着床出血」と呼び、膣から少量の出血が見られます。
鮮血であったり茶色っぽく見えたりさまざまですが、数日で治まることがほとんどです。
月経と見分けがつかず短い生理だと思ってしまうケースがある一方、着床出血自体が起こらない人もいます。
出血が何日も続く場合、痛みを伴う場合など、いつもと違うと感じたときは産婦人科を受診しましょう。
着床時に痛みを感じる「着床痛」。
しかし、どうして痛みが生じるのか、メカニズムについては医学的根拠がなく、着床痛自体は正式な医学用語ではありません。
ただ実際は、下腹部がチクチクと刺すように痛んだり、生理中のように重くだるく感じたり、人によってさまざまな症状が出るといわれています。それもはっきりと自覚できるような症状とは限らず、妊娠が確定してから「もしかしたらあれがそうだったのかも?」と思い返す人も多いです。
着床痛がないからといって妊娠していないとは限らないので、気にしすぎないようにしてください。
逆にこうした痛みが現れても、過剰に不安になったり心配しすぎたりしないようにしましょう。
立っていられないなど日常生活に支障が出るほどの症状が出た場合には、迷わず産婦人科を受診するようにします。
個人差の大きいことなので一概にはいえませんが、通常のおりものは透明や乳白色、またはクリーム色をしていて、粘度や色、量は月経周期などによって変化します。
着床せず生理になると、おりものの量は最も減るといわれます。
着床時期に見られるおりものの変化には、量が増える、粘度が減りサラサラになる、白く濁る、色が濃くなるなどが挙げられます。
ただし、これらの変化がすべての人に起こるとは限りません。
着床出血がおりものに混ざると、茶色っぽく見えます。
生理の始まりと勘違いしてしまいそうですが、着床出血はごく少量であることがほとんどなので「経血にしては数日しても量が増えない」と感じたら、注意深く観察しましょう。
通常とは違う血の混ざったおりものが大量に出たり、それが何日も続いたり、下腹部痛を伴うようなときは、産婦人科で相談するようにしてください。
着床すると現れる「妊娠のサイン」があります。
このサインは個人差が大きいのですが、前もって起こり得る変化について知っておきましょう。
最も分かりやすい変化は、月経が止まることです。
月経は不要な子宮内膜が剥がれ落ちる現象なので、着床した場合は起こりません。
ただ、普段から月経周期が不順なら気付くのは難しいです。
生理が毎月来ない、数カ月空くのが普通になっているなど生理不順を抱えている場合に、妊娠の心当たりがあるときは、その他の体調にも気を配りましょう。
妊娠の初期症状には胸の張りもあります。
着床すると、胎盤からはさまざまなホルモンが分泌され始めます。
女性ホルモンのエストロゲンもその1つで、乳腺や乳管を発達させ乳房を大きくする働きがあります。
生理中に感じる胸の張りと比べると、着床後は症状が強く出る傾向にあるようです。
程度や期間は個人差が大きいですが、妊娠中期にいったん落ち着き、妊娠後期になると再び胸に張りや痛みが現れる人が多いです。
一方で、まったく胸の張りを感じない人もいます。
あまり気にしすぎないようにしましょう。
妊娠するとホルモンバランスが急激に変化するため、精神面が不安定になりがちです。
ちょっとのことでイライラしたり、わけもなく気分が沈んだりして、精神的にとても脆くなります。
そんな状態になっている自覚がない場合や、自覚していても原因が分からず、余計にふさぎ込んでしまうという悪循環が起こっている場合もあります。
妊活中は、自分の言動を少し冷静に見つめてみましょう。
妊娠によりホルモンバランスが乱れる可能性を知っていれば、幾分落ち着いて対処できます。
パートナーや家族以外にも、近しい人に事情を話せるなら、ずいぶんと過ごしやすくなります。
妊娠が確定する前の妊娠超初期から、強い眠気に襲われるケースが多いようです。
これはつわりの一種と考えられていて、「眠りつわり」と呼ばれます。
つわりの症状は、妊娠16週以降の妊娠中期になると治まることが多いとされます。
つわりの原因は諸説あり、はっきりとはわかっていません。
子宮の中の胎児を体が異物と認識して体調不良を起こしているとする説、黄体ホルモン(プロゲステン)が眠気を引き起こしているとする説、着床後は体温が高い状態が続くので夜の眠りが浅く、日中に眠気を感じてしまうとする説など、諸説あります。
眠いときは思いっきり眠るのが一番ですが、仕事や育児でそうはいかないことも多いです。
爽快感のある洗口液を常備する、伸びをして深呼吸するなど、簡単にできる気分転換の方法を複数用意しておきましょう。
眠気にはカフェインですが、妊娠への影響が心配されるため、妊活中は控えましょう。
基礎体温とは、朝目を覚まして、起き上がる前に口腔で測る安静時の体温のこと。
正常な基礎体温は、低温期が2週間、排卵して高温期が2週間続きます。
そしてまた低温期に入り、月経が始まります。
妊娠すると基礎体温は高温を維持して、低温期に入らなくなります。
高温期が14日以上続くと妊娠の可能性があり、3週間続くとほぼ妊娠確定といわれています。
高温期は妊娠14週頃まで続き、胎盤が完成する頃になると落ち着きます。
顔が火照ったような感覚や熱っぽさなどは、徐々に改善していきます。
次はタイミングを持ったあと、生理が来ないなど着床した可能性がある場合の過ごし方について解説していきます。
妊娠の確定を待つ間、注意すべき点は何でしょうか。
妊娠が成立していた場合は胎児への影響が心配されるため、飲酒と喫煙はやめておきましょう。
胎児の正常な成長が阻害される恐れがあります。
妊娠する前の段階では、着床率にたばこやアルコールが関係するといわれています。
特にたばこは、着床率低下や初期流産の原因になるという報告があります。
妊娠を希望するなら、禁煙しておくのが原則です。
そしてアルコールは、飲みすぎによる着床率の低下が懸念されています。
飲みすぎの定義は難しいため、妊活開始から出産、卒乳までの数年ほどは禁酒しておくのが理想的といわれます。
またアルコールは体を冷やす作用があるので、やはり妊娠するためには避けておくべき要因です。
着床の瞬間から、母体と胚はつながっています。
薬剤の胚や胎児への影響は、実験するわけにいかないので不明な点が多々ありますが、まったくないとは断言できません。
風邪薬や頭痛薬など、市販薬に頼りたくなる場面は多いですが、まずは産婦人科で相談するのが一番です。
妊娠に影響のない薬を処方してくれることもあるので、体調不良があるときは自己判断せず、受診しましょう。
激しい運動は着床や妊娠の継続にとって障害となります。
マラソンや登山など、ハードなスポーツは避けましょう。
安産のためのマタニティビクスなどは、妊娠初期にはまだ必要ありません。
ただ、運動不足によるストレスは避けたいもの。
部屋の中であまり動かず過ごしていると血行不良の原因にもなってしまうので、ウォーキングなどの軽い運動には積極的に取り組んでみてください。
着床時期から妊娠初期に安静は必要ありません。
仮に着床が成立しなかったり、初期流産してしまった場合は、受精卵に遺伝子異常があるなどの理由が多く、母体の運動量とは関係ないことがほとんどです。
家事や仕事を普段通りにこなしても何の問題もありません。
ただ、熱っぽさや眠気を感じる場合は、無理をせず休息をとるようにしましょう。
ストレスは妊娠にとって最も避けるべき負担です。
着床している可能性があっても、夫婦生活を制限する必要はありません。
性行為が受精や着床に与える影響はないとされているので、普段通りに過ごしましょう。
ただし、出血や体のだるさなど、体調がいつもと違うと感じたら休むようにしてください。
また、あまりに長時間の性行為は体が冷えてしまうので避けます。
避妊具は、雑菌が入る心配があるため、極力使用するようにしましょう。
着床していると、そんな気分になれないという女性も少なくないです。
妊活を始めるにあたって、妊娠はメンタルの部分でも変化があることをパートナーと共有しておくと、お互いに余計なストレスを抱えることなく過ごせます。
次の生理予定日を過ぎ、1週間経っても月経が始まらない場合は、妊娠の可能性があります。
生理予定日の1週間後から使える妊娠検査薬が市販されているので、自宅で調べてみてください。
市販の検査薬は、hCG(ヒト絨毛性(じゅうもうせい)性腺刺激ホルモン)の尿中濃度が一定量を超えると陽性が出るようになっています。
hCGは着床後に胎盤から分泌されるホルモンです。着床後3~4日で尿へ排出され始めます。
検査が早すぎたときは妊娠していても陰性になることがあるので焦らずに、気になるときは数日置いて、もう一度検査してみましょう。
水分の摂りすぎで尿が薄くなると陰性が出ることもあります。
生理予定日の当日から使用できる「フライング検査薬」も売られています。
通常の検査薬より1週間早く調べることができますが、こちらも焦りすぎないようにして活用してください。
着床の可能性があるとき、市販の妊娠検査薬が使えるようになるまでは落ち着かない毎日になりますが、過剰な不安は妊娠の大敵。
体調の変化に一喜一憂せず、心に余裕を持って、リラックスしてその日を待ってみてください。
また、検査薬は補助的なものなので、陽性判定が出たら必ず産婦人科を受診し、妊娠を確定してもらいましょう。