高度不妊治療の一つ体外受精はどのような流れで行われるのでしょうか。体外受精を受けるときの流れやかかる費用、妊娠する確率やリスクなど、体外受精を受ける前に知っておきたいことはさまざま。事前に体外受精について知り、不安や疑問を取り除きましょう。
10組に1組のカップルで、赤ちゃんを望んでいるけれどなかなか妊娠しないという不妊症の症状がみられるといわれています。体外受精は不妊に悩むご夫婦が妊娠するために行なう不妊治療の一つで、タイミング法などの一般不妊治療では妊娠しなかった方が、ステップアップして治療を行う高度生殖医療です。
ここでは、体外受精を受けるときの流れやどれだけの費用がかかるのかなどをご説明します。無理なく妊活に取り組めるように、体外受精について知っておきたい情報をチェックしておきましょう。
不妊治療の一つになる体外受精は月経の周期に合わせて検査や治療を行う必要があり、一度の通院では終了できないものです。妊娠するために受けられる不妊治療として気になる体外受精とはどのような流れで行うものなのか、またどのようなリスクがあるのかなどを実際に体外受精を受ける前に確認しておくことで、適したスケジュールを立てて希望にあわせてスムーズに治療が受けられます。
体外受精の採卵数は25歳で約10個、40歳で約3個が平均といわれています。年齢が高い方が卵子の数が減り受精の可能性が低くなるのですが、体外受精ではより良質の卵子を採卵するために排卵誘発法を行い卵胞を発育させることができます。
排卵誘発法にはアゴニスト法(点鼻薬・皮下注射)とアンタゴニスト法(腹部皮下注射)などの月経時から採卵まで排卵誘発剤の注射を行う刺激法や、注射の回数が少ない低刺激法があり、採卵前の排卵を抑制して採卵数を多くすることができるようになります。
排卵誘発剤を使用して採卵する刺激法や低刺激法では採卵できる数が多くなりますが費用が高額になるというデメリットもあります。排卵誘発剤は種類によって費用や排卵される数の多さ、副作用の重さなどが異なっているため、希望する薬を選んで施術を受けることが可能です。
薬を使用しない方法は自然周期法といいます。自然周期では採卵できる数が減るため何度も採卵する場合があります。ただし費用が安くすみ体への負担が少ない、卵子の質がよい場合があるなどのメリットもあります。
体外受精は採卵後の卵子と精子を体外で受精させてから子宮に戻して着床させる方法です。シャーレ上の培養液に採卵した卵子をいれ精子と合わせて精子が卵子と自然に受精するのを待って、できた受精卵を培養します。
体外受精の中でも「顕微授精」といわれる方法では受精の方法が異なります。顕微授精は顕微鏡でみながら卵子に人工的に精子を注入して受精させる方法です。精子や卵子の状態によって体外での自然受精が難しいと思われるときに、顕微授精で人工的に受精を行った方が受精する確率が上がるといわれています。
受精が成功して培養液で培養している受精卵が細胞分裂を開始したら「胚」と呼ばれるようになります。胚は培養庫(インキュベーター)の中で分割を繰り返しながら発育し、2~3日目の初期胚の状態か5~6日以降の胚盤胞の状態で子宮内に移植されます。
胚移植には初期胚の段階の胚を移植する「初期肺移植」や、着床寸前の段階になる胚盤胞を移植する「胚盤胞移植」、初期胚と胚盤胞を続けて移植する「二段階移植」などの方法があります。
妊娠判定は血液中のhCGの値を測定して行います。hCGホルモンは受精卵が子宮に着床し妊娠したときに、子宮内の胎盤から分泌されるホルモンです。受精卵が着床してから徐々に分泌量が増えて数日後には尿に排出されるので、尿に含まれるhCG値で妊娠しているかどうかを調べることで妊娠の確定ができます。
体外受精後に初期胚を子宮に戻したあと妊娠したかどうかの判断ができるようになるまでは移植後約2週間の期間が必要、また胚盤胞の移植後には約11日後に妊娠の判定ができるようになるといわれています。妊娠判定の通院日を移植後2週間後に指定される場合も多いため、妊娠の確定は基本的に2週間後に行われると考えておくとよいでしょう。
妊娠を望んでいる方の妊娠率を上げることができる体外受精ですが、体外受精を行うことで生じるといわれるリスクや特徴についても事前に確認しておくと安心です。体外受精で生じる大きなリスクはないといえますが、リスクや特徴には以下のようなものがあります。
通常の妊娠時よりも体外受精で妊娠したときのほうが双生児を妊娠する可能性が高くなるといわれています。双生児妊娠のために早産や流産の可能性が上がることには注意が必要です。
薬や注射に対する反応には個人差があるため、排卵誘発剤を使用した場合に卵巣が過剰に反応して腫れが生じる、腹水や胸水が溜まるなどの薬の副作用から起きる症状をOHSSといいます。
まれにひどくなった場合には血がどろどろになり血栓が生じやすくなる、呼吸困難になるなどの症状も発生します。予防と早期発見により重症化させないように気をつけることが大切です。
採卵は超音波で確認しながら専用の採卵針で行われます。病院によって麻酔の有無や方法は異なりますが、全身麻酔や局所麻酔を使用しながら慎重に行われる施術です。ただし採卵時にはごくまれに出血や膣内の細菌に感染する可能性があります。
体外受精で妊娠した場合には自然妊娠のときよりも流産する確率が高いといわれています。自然妊娠では流産する確率が10~15%程度ですが、体外受精の場合は約21%、顕微授精では約22%と流産率が上がっているようです。
ただ、自然妊娠の場合でも35歳以上は20%弱、40歳以上で約40%という流産率を発表している病院もあるので、不妊治療を受けている方の年齢が40歳前後に多いことから体外受精によって増加するリスクではないとも考えられます。
体外受精で子どもの染色体異常などのリスクが増えるという医学的な根拠はないといわれています。生まれてくる子どもの染色体異常のリスクは自然分娩でも年齢とともに確率が高くなり、女性が40歳のときに約15%、43歳では約30%になるといわれます。そのため、体外受精が原因ではなく年齢などの要因からリスクが生じている可能性があるとされています。
ただ、男性の乏精子症や無精子症が原因の不妊症のときには男性が染色体等に異常を持っている場合もあり、その精子を使用して顕微授精を行って男の赤ちゃんが生まれたときには、男の子が将来不妊症となる可能性があるといわれています。
高度生殖医療の体外受精で妊娠する確率は一般不妊治療の人工授精で妊娠する確率よりもかなり高いといえます。人工授精での妊娠率は約5~10%といわれていますが、体外受精の場合には妊娠率がぐんと上がり30代前半では約35~40%、30代後半が約30%、40代前半では約15~20%、40代後半では妊娠する確率が10%以下とされ、年齢が上がるとともに妊娠する確率が下がっているという特徴もあります。
不妊治療にかかる費用は、一般的に100万円以上といわれています。体外受精のように高額な高度生殖医療を受けるためにハードルとなるのが費用なのですが、助成金を利用することで負担を抑えることができます。体外受精の費用と助成金について確認してみましょう。
体外受精は健康保険が適用にならない自費診療のため、費用が高額になることも多いです。使用する薬や検査の回数、病院によっても費用が異なるのですが、1回の体外受精で約25万円~50万円かかるといわれています。
顕微授精の場合には、体外受精よりも少し高くなり1回30万円~70万円の費用がかかるといわれます。1回の体外受精で妊娠することができなかった場合には、さらに同じように費用がかかるため、回数が増えるほど経済的な負担が大きくなります。
体外受精と顕微授精を受ける場合には、支給条件に合えば国の「特定不妊治療費助成事業」の助成金をもらうことができます。不妊治療開始日に女性が43歳未満の夫婦で、夫婦の所得合計が730万円未満の場合に、指定された医療機関で体外受精もしくは顕微授精を受けると1回15万円(初回に限り30万円)の助成金が受けられます。
このように経済的に負担が大きい体外受精ですが、助成金を活用することで負担を減らすことが可能になります。助成金の支給回数は6回まで(開始時に女性が40歳以上のときは3回まで)と回数制限がある点には注意が必要です。また、地方自治体によって異なりますが自治体から出る助成金もあるのでお住まいの地域の助成金もチェックしてみるとよいでしょう。
移植当日に気をつけることや移植後にはどのようにすればよいのかを事前にチェックして、安心して当日を迎えられるようにしましょう。
子宮への胚移植時には体外受精後に培養士が大切に培養した初期胚もしくは胚盤胞を子宮に移植します。移植当日には朝に子宮の環境を整えるための膣座薬を自宅で使用するなどの準備を行います。病院によっては移植前に尿を溜めておく場合もあります。尿を溜めることでエコーで子宮内がみやすくなり、膀胱のふくらみで子宮の位置が安定するというメリットがあるためです。尿を溜めておく場合にはお茶などの飲み物を持ち歩くようにするとよいでしょう。
病院では胚の状態について説明を受けてから移植が始まります。医師がお腹にエコーを当てて子宮の中を確認しながらカテーテルで胚を子宮内に移植すると終了です。胚移植直後には病院で30分ほど安静にする必要があります。
体外受精の胚移植後には着床しやすいように卵胞ホルモンが処方されたり、黄体期管理のための黄体ホルモン、感染予防のための抗生物質が処方されます。移植後には特別安静にしておく必要はなく、激しい運動をしなければ普段どおりの生活を行っても大丈夫です。栄養のある食事をとってストレスを溜めないような生活を送りましょう。
体外受精の移植当日には、膣内に傷がついている可能性があり器具を使用していることからシャワーは可能ですが入浴は控えたほうがよいでしょう。ウォーキングなどの適度な運動は問題がありませんが、激しい運動や自転車なども控えたほうが安心です。移植後から着床するまでの数日間は夫婦生活を控えたほうがよいともいわれています。
また、喫煙によって受精卵が子宮内膜以外のところに着床する「子宮外妊娠」の可能性が上がるため喫煙は避けたほうがよいでしょう。妊娠したあとのことを考えてアルコールを取らないように、またコーヒーの過剰摂取を控えるように気をつけるほうが安心といえます。
胚移植後には特に症状が出ない方もいますが、受精卵が着床したあとに微熱や吐き気、頭痛など風邪の症状に似ているような妊娠の初期症状が現れる場合があります。調子が悪いと思ったら、ただの風邪と間違えて市販の風邪薬などを飲まずに医師に相談するようにしましょう。
また胚移植後、数日間はカテーテルの摩擦による傷から出血する可能性があります。出血があったときには慌てず診察を受けましょう。強い下腹部痛や多量の出血があった場合にはできるだけ早く病院に行きましょう。
体外受精後に受精卵が子宮内に順調に着床したら妊娠確定まであと一歩です。着床から妊娠の判定ができるまでにはどれほどかかるのか、少しでも早く知りたいときにはどうすればいいのかをチェックしましょう。
胚が子宮内にある状態から子宮内膜にくっつき、中にもぐると着床になります。体外受精の胚移植後は初期胚の移植時には3~5日で着床し、胚盤胞を移植した場合には1日で着床するのですが、初期胚は数日かけて発育し、胚盤胞になってから子宮内膜に着床するので胚盤胞よりも期間がかかり、胚盤胞移植より着床の確率は低いといわれています。胚移植を行っているけれど着床しないというときには、胚に問題がある場合や子宮に問題がある場合があります。
体外受精のための卵子や精子は採卵・採精後に病院でできるだけ良質なものを選別してから受精が行われるのですが、着床しない場合には受精後の胚に染色体異常などが生じている可能性があります。そこで現在は胚の染色体に異常がないか事前に調べてから移植することができるように「着床前スクリーニング」の研究が進められています。
子宮が原因の場合には、子宮内膜ポリープや子宮筋腫、慢性子宮内膜炎、自己免疫抗体異常、ホルモン異常などの問題が考えられます。子宮の問題にはそれぞれの治療を受けて改善することができるのですが、原因が不明の状態で着床しないことが続く場合には「子宮内膜受容能検査(ERA)」で遺伝子レベルの検査を行って着床に適切な時期を調べてから移植を行うことで、妊娠の確率が上がるといわれています。
体外受精の妊娠判定は、採卵日から約14日~16日後くらいに行われることが多いといえます。妊娠後に分泌されるhCGホルモンの濃度が尿中に多くなった時点で妊娠判定時に陽性反応が表れます。検査後妊娠判定が陽性になったときには、その後も引き続き妊娠8週目位までホルモンの補充を続けてお腹の赤ちゃんの発育を補助します。
通常では体外受精の2週間後に行う妊娠検査ですが、早く妊娠検査をしたいというときには「早期妊娠検査薬」を使用してその1週間ほど早く検査をすることができます。早期妊娠検査薬ではhCGホルモンの濃度が標準の妊娠検査薬が検知できる半分の量の25IU/Lでも反応するようになっているため、早い時期でも妊娠の有無を判定できます。
ただ、hCGホルモンが分泌されるまでの時間には個人差があるので、早い時期にフライングで検査を行っても確実に判断することはできないといえます。また体外受精時にhCG注射を行っている方の場合には、妊娠していないときでも体内にhCGホルモンが残っていてフライング検査で陽性となる場合があるので、妊娠検査薬を使用するときには医師に相談してからの方がよいでしょう。
体外受精で胚移植を受けてから2週間後の妊娠検査により妊娠確定の判定後には妊娠5週目に超音波で胎嚢の確認が行われ、妊娠7週目には胎児の心拍の確認が行われます。そして妊娠9週目には妊娠が安定して不妊治療は終了といえます。心拍確認ができたあとには流産する可能性が下がるといわれているため、胎児の心拍が確認され妊娠判定された後には、自治体から母子手帳を発行してもらうことになります。
それまで不妊治療で通っていたクリニックに産科が無い場合には、分娩施設のある産婦人科に転院して妊婦生活や出産までの準備を始めます。心拍確認後であっても女性の年齢によっては流産する確率が高い場合もあり、35歳以上で20%、40代では40%の確率で流産する可能性があるといわれています。心配な点がある方は母親から胎児の健康状態まで総合的に管理してもらえる周産期医療を行っている病院へ転院すると安心といえます。
日本産婦人科学会が発表している体外受精で妊娠する確率は、1回の胚移植で16.8%となっています。妊娠する確率は年齢によっても異なり、女性の年齢が30歳で39.8%、35歳で36%、40歳では24.5%と、年齢が高くなるほど妊娠率が下がるとされています。年齢による妊娠率の低下は、卵子や精子の質が年齢とともに下がってしまうからとみられています。
体外受精のなかでも受精卵を通常の初期胚ではなく5~6日培養したあとの胚盤胞にしてから子宮内に移植する方法を行うと、妊娠する確率が初期胚の場合の約20%から約30%へと上がります。また、初期胚や胚盤胞のグレードが高いほど妊娠率が上がるといわれています。
初期胚のグレードとは、分割の均等さとフラグメンテーションがないか(細胞が壊れていないか)などの状態によって決まります。グレードは1から5まであり、数が少ないほうがよい胚になり、妊娠の確率が高いといわれています。胚盤胞の場合にはグレードの数が1~6まであり数が大きいほどよい胚となり、高いグレードの胚盤胞は約45%まで妊娠の確率が上がるといわれます。
自然妊娠で子供ができないと悩んでいる方は多くみられます。不妊治療は特別なものではなく、6人に1人の方が行っているもので、医療費が高額になるという問題にも助成金の利用で負担を減らすことができるようになってきています。
年齢が低いほうが妊娠しやすいため不妊治療も早めに始めることがおすすめといえますが、体外受精を受けることで妊娠率を上げることができます。子供を望んでいる方は体外受精のメリットやデメリットを確認してから、挑戦してみてはいかがでしょうか。