働き方改革が推進されるとともに、「妊活」が夫婦にとってのキーワードになりつつあります。ここ数年は、ドラマなどでも妊活について取り上げられるようになり、40歳以上でも安全に取り組める妊活メソッドが開発されるようになりました。
妊活というと、女性の体質を改善し、排卵周期を整え、妊娠しやすい体をつくるイメージがあるかもしれませんが、妊活の意味はそれだけではありません。本来の妊活とは、女性だけでなく男性のほうも積極的に取り組むべきもので、夫婦が協力して長いスパンで行わなければ望ましい結果は得られません。
女性と男性、それぞれの立場からみた妊活とそれぞれの注意点について医学的に解説するとともに、妊活中に気をつけるべき夫婦間でのトラブルについてひとつひとつみていきます。
妊活と似たようなニュアンスの言葉に不妊治療があります。どちらも子どもを授かるための自然なプロセスですが、医学的にみた意味と役割には違いがあり、用いられるメソッドや検査方法についても異なっています。不妊治療と比較するかたちで妊活本来の意味をとらえ直しましょう。
妊活は、ここ数年に広がった比較的新しい言葉であるだけに、いろいろな意味で誤解されやすい側面があります。第一に妊活とは、「夫婦が計画的に子どもを授かることについて考える最初のステップ」であると表すことができます。
とくに30代以上の女性の場合、一般企業で働くうえではある程度子作りを犠牲にせざるを得ない面があることは事実です。40代が近づいてあらためて妊娠と出産について考えた時、20代とは違った角度からのアプローチが必要になります。これがいわゆる「妊活」です。
一方の不妊治療はあくまで、「不妊」を治療することが目的です。つまり、あらかじめ不妊であると診断されていることが必要であり、そのうえで少しでも妊娠しやすい体質に近づけたり、自然妊娠以外で子どもを授かるアプローチを模索するプロセスを表します。
妊活と不妊治療は本来ひとつづきのプロセスであり、妊活がどうしてもうまく進まなかった場合に不妊治療を検討する、というのが一般的な流れになっています。
妊活でも病院に通うため人工的な妊娠を最初からめざすものだと誤解されがちですが、本来の妊活とは「妊娠しやすい体をつくる」ためのプロセスとして位置づけられています。
初期段階での妊活では、特殊な器具や薬は使わず、タイミング法や生活習慣の改善によって男女双方のコンディションをととのえ、自然な性行為によって妊娠することを目標とします。
タイミング法などでは限界がみられる場合は、排卵誘発剤などによる薬物療法や体外受精を視野に入れることになりますが、その場合も夫婦の意思が尊重され、担当医が一方的に主導権を握ることはありません。
妊活を本格的に考えている夫婦が専門の医療機関を受診すると、まず、男女どちらかに「子どもをつくりにくい原因」がないかどうかを検査によって調べることからはじめます。
子どもが授かりにくい原因として、女性側の場合は排卵が起きにくい、生理周期が安定しない、排卵されない月がある、などがあり、原因ごとに対処法が異なります。
男性側の原因としては、精子の濃度が薄い、精子の寿命が極端に短い、精子の耐久性が弱い、などが考えられ、妊活の初期段階で「フーナーテスト」によって精子の強さと量を調べられることがあります。
子どもができない原因が特定できたら、今度はその原因を取りのぞくための具体的なアプローチについて担当医とともに考えていく段階に入ります。
たとえば、女性の排卵周期が乱れている場合は排卵誘発剤などを投与したり、男性の精子が薄い場合は精子の濃度を高める薬を服用したりと、原因によって的確なアプローチを行うことで妊娠しやすい土壌を少しずつととのえていきます。
妊活が成功し、無事に赤ちゃんを授かるケースもありますが、残念ながら妊活だけでは限界があり、必ずしも子どもに恵まれるとはかぎりません。妊活はもともと自然妊娠をめざすためのプロセスであり、医学的なアプローチをメインとする不妊治療とは本来的な意味合いが異なっています。
ただ、最近では両者の境界線が次第に曖昧になっており、妊活のプロセスのなかで体外授精を検討したりと、妊活そのものを不妊治療の一部としてとらえる風潮が強まっています。
妊活では「妊娠しやすいタイミング」が重視されます。妊娠しやすいタイミングは女性の体調や心理状態によって大きく左右され、精密検査でも正確なタイミングをつかむことはきわめて難しいといわれています。一般的なパラメータとされる基礎体温と排卵日の意味と測定方法についてあらためて理解しておきましょう。
基礎体温によって女性が妊娠しやすいタイミングを知ることができるといわれるのは、基礎体温が低くなった前後に排卵が起きるためです。
バイオリズムが正常に保たれている女性では低温期と高温期が一定の周期で繰り返されており、低温期の数日後に排卵が起き、高温期を経て月経に至る、というパターンが正常であるといわれています。
基礎体温を毎日測定し、グラフにして記録しておくことは、妊娠しやすいタイミングを把握しやすくするという目的だけでなく、ホルモンバランスのわずかな乱れをとらえ、体調の変化に敏感に対処するために不可欠なプロセスでもあります。
基礎体温は「毎朝、同じ時間に測る」ことがポイントです。体が活動をはじめてしまうとどうしても体温が上がってしまうので、目覚めてすぐのタイミングで時間を置かずに測ることが重要とされています。
より正確な数値を得るため、専用の婦人用体温計を使用し、体温に近い口の中で測定することで正しい基礎体温を把握することができます。
短期間だけ測定してもあまり意味はなく、妊活を考えている場合は3カ月や半年以上、できれば妊娠が成立するまで長いスパンで測りつづけることが大切であるといわれています。
妊活は果たして、どのくらいの年代から考えはじめればよいのでしょうか。妊活が最も成功しやすい年代と年代ごとの妊活への向き合い方について解説します。
20代のうちは一般職、あるいは総合職として主体的に仕事をこなしている女性でも、30代中盤をむかえる頃になると少しずつ「子ども」というキーワードを意識するようになり、パートナーがいれば本格的な妊活に取り組むケースがめずらしくありません。
ただ、現実的な数字として、30代女性が自然妊娠をする確率は約30%にすぎないといわれており、年齢が上がるほどどんどん妊娠しにくい体に変わっていくという現状があります。
日本で妊活というと、ある程度年齢を重ねた女性のためのプロセスであると考えられがちですが、実際には「妊活適齢期」などなく、若いうちからはじめるほど成功確率がアップすることは確かです。現に、ここ数年は20代のうちから妊活セミナーや無料相談に通う女性が増えており、妊活をより自然なプロセスとしてとらえる流れが一般的になりつつあります。
妊娠しやすさも女性によって大きく異なるため、結婚前からパートナーと将来の妊活について深く話し合っておくことも意味のあるプロセスです。
サプリメントによって体内の栄養バランスを改善し、妊娠しやすい体質に近づけていくことも妊活の大切なプロセスのひとつです。
妊娠初期においてはとくに「葉酸サプリ」の摂取が重要であるといわれており、厚労省の基準では「1日あたり40mg」の葉酸を摂ることが推奨されています。妊娠前の段階から継続的に取り入れることで効果が得られるとされています。
葉酸は、レバーなどに多く含まれており、食事からも摂取することが可能ですが、吸収効率の面では葉酸サプリなどの「モノグルタミン酸型葉酸」のほうが圧倒的にすぐれており、摂取したうちのおよそ80%が体内で利用されると考えられています。
葉酸は水溶性のため、一度にたくさん摂取すると、尿によってほとんどが排出されてしまいます。そのため、40mgを1日のうちで数回に分けて摂取するようにし、より効率よく体内で吸収されるようにする必要があります。
薬やサプリメントの力を借りることだけが妊活ではありません。普段の食事から徹底してこだわり、体によくないものをさけることによってよりいっそう妊娠の可能性を高め、自然妊娠しやすい体質づくりにつながります。
妊活中にかぎらず普段の食事でも、「1日3食、バランスよく食べる」ということが基本となります。栄養素を偏りなく取り入れるためには肉、魚、卵といった食材も決してタブーではありませんが、ただ、生のまま摂取することはあまりおすすめできません。
生肉や生卵、そして刺身は、栄養が豊富ではあるものの体を冷やす作用があり、長期的に摂取すると体温を低下させ、かえって妊娠の確率を下げることにつながりかねません。
妊活中は、できるだけ加工した食材を中心に摂取しましょう。体温を極力下げないようにすることで、妊娠しやすい体質に近づけることがポイントです。
嗜好品として妊娠前からコーヒーやアルコールを摂取している女性は多いことと思います。ただ、コーヒーに含まれるカフェインの覚醒効果によって眠りが浅くなり、睡眠中に多く分泌されるはずの女性ホルモンが正しく分泌されなくなることがわかっています。
女性ホルモンの分泌量が少なくなれば、結果として妊娠周期が乱れ、妊娠しにくい体がつくられてしまうのです。また、カフェインやアルコールには体を冷やす作用があるため女性のバイオリズムを乱しやすく、その点からも妊活中は摂取をひかえるべきだとされています。
妊活の第一歩は、妊娠しやすい体質をつくっていくことです。自然妊娠の確率を上げるために必要な女性側の心構えについて簡単にお伝えします。
人間の体は基本的に、寒ければ活動を抑制し、暖かければ活動を活発化させるようにできています。女性の体内でも、体温が下がるとホルモンの分泌レベルが落ち、妊娠にそなえたスイッチが入らないまま月経をむかえてしまうこともめずらしくありません。
冷たい食べ物や飲み物、冷房などをさけ、体温を極力一定に保つことでホルモンバランスも正常に近づき、自然に妊娠しやすい体質がつくられていきます。
妊活中は安静にすべきと考えがちですが、実際には適度な運動がホルモンバランスをととのえ、自然妊娠の確率を上げることがわかっています。
もちろん、極端に激しい運動は逆効果ですが、休みの日に15分から30分程度ジョギングをする、温水プールで水中ウォーキングをつづける、などの運動習慣を無理なく取り入れることで、気分にもメリハリが生まれ、妊娠周期がより明確になってきます。
妊活は決して、女性だけの問題ではありません。夫婦を対象にした妊活セミナーが全国各地で開かれており、男性にも妊活の重要性が理解されるようになってきています。
男性の妊活としては、精子の濃度や運動率を高めることが重要であるとされていますが、検査をただこなすだけでなく、「妊活は夫婦の問題」であると認識することが何よりも重要であり、夫婦が足並みをそろえて取り組まなければ本当の意味の妊活にはなりません。
女性ひとりが頑張っても妊活は成功しません。妊活をはじめる前にどの程度パートナーと深くまで話し合い、共通のゴールを見据えて歩いていけるかが最大のポイントといえます。本格的な妊活は、数年単位というロングスパンで行われるものであり、男性のほうも気がねせずに有休が取れる制度など、システム的な改革も今後は必要になるでしょう。