体外受精の成功率は、1~2回目が高いといわれています。
うまくいかなかった場合には、誘発方法や移植方法を変えてみるのもよいでしょう。
その移植方法には、「初期胚移植」と「胚盤胞移植」がありますので、ここでは胚盤胞移植の流れや注意点をみていきます。
体外受精では、採卵した卵子を精子と受精させ、できた受精卵を培養液の中で育てます。
受精卵は培養液の中で成長しますが、どの段階で子宮に戻すかにより着床率も変わってきます。
早い段階で子宮に戻す「初期胚移植」に比べ、より培養液の中で成長させた後に移植する「胚盤胞移植」の着床率・妊娠率は高くなっています。
しかし、胚盤胞移植にはメリットもあれば、デメリットも。
まずは胚盤胞移植の流れと、注意点をしっかりと理解したうえで、体外受精の1つの選択肢として考えるとよいでしょう。
この記事では、より胚盤胞移植への理解を深めるために、胚盤胞移植のグレードや妊娠判定までの流れ、メリット・デメリット、移植後の過ごし方などについて解説します。
胚盤胞という言葉を聞いてもピンとこない人も多いでしょう。
まずは胚盤胞とはなにかについてみていきます。
胚盤胞とは、受精卵の成長過程での変化した状態をいいます。
通常は採卵した1日目に、受精確認を行います。
そして受精卵は2日目に4分割胚、3日目に8分割胚、4日目に桑実胚、そして5日目に胚盤胞になります。
かつては専用の培養液の中で胚盤胞まで育てることは難しかったのですが、近年では培養液や技術の向上により胚盤胞まで育てることが可能になりました。
そして以前行われていた、受精初期の状態で移植することを「初期胚移植」、培養液の中で胚盤胞まで育てたあとに移植することを「胚盤胞移植」といって区別するようになったのです。
初期胚移植の場合は、着床前に成長が止まってしまう胚も移植されていましたが、胚盤胞移植ではその可能性を低く抑えられます。
そのため着床・妊娠率が高く、移植の回数を減らすことが可能です。
初期胚の質(グレード)は、5段階で評価されます。
評価方法は見た目なので、染色体異常などまではわかりません。
グレードのよい胚を選んで凍結保存をしておくことが多いです。
以下、グレードをまとめておくので参考にしてください。
最も良い状態で、細胞の破片(フラグメンテーション)がみられず、割球が均等。
フラグメンテーションがわずかにあるが、割球は均等。
フラグメンテーションはないか、またはわずかにあり、割球は不均等。
フラグメンテーションは多く、割球は均等か不均等。
フラグメンテーションは非常に多く、割球がほとんど認められない。
それでは、胚盤胞移植をする場合の移植の流れを見ていきましょう。
採卵した卵子と精子を、シャーレの中に一緒に入れて受精卵にします。
その受精卵を専用の培養液の中で育てると、2日目に4分割胚、3日目に8分割胚、4日目に桑実胚に育ちます。
そして5日間培養すると、体外で育てられる限界である胚盤胞となります。
複数の胚盤胞ができた場合ですが、グレードのよい胚から体内に移植します。
クリニックによりますが、一旦全部を凍結してから移植していく場合や、新鮮胚を移植する場合など、個人個人の治療の状況によって、移植方法が決められます。
体外受精の場合、採卵する医師だけではなく、培養士の技術力も非常に重要になります。
医師の手を離れたところでも重要な治療が進められていることを頭に入れておきましょう。
胚移植をした直後に着床するわけではありません。
子宮に戻されたばかりの受精卵は、2~3日子宮内を漂います。
長いときは5日間くらい漂っている場合も。それから絨毛を伸ばし子宮に潜り込むのです。
着床とは、このように受精卵が子宮内膜に潜り込み、母体から酸素や栄養を吸収できる準備を整えた状態をいいます。
では「アシステッドハッチング」という言葉はご存じでしょうか。
受精卵は着床するためには(ハッチング)をして子宮内膜に潜りこまなければなりません。
しかし自力でハッチングできない受精卵の場合、人の手でハッチングの手助けをしなければならないのです。
その手段をアシステッドハッチングといいます。
アシステッドハッチングを行う場合ですが、凍結胚の場合や、年齢が高い場合に行うことが多いようです。
体外受精を行った場合、妊娠判定は移植後10~14日くらいで妊娠判定をすることが多いです。
遅いような気がしますが、移植後すぐには着床しないで子宮内を漂うこと、そして着床してもすぐでは妊娠判定に必要なhCGの濃度が低すぎること、または体外受精を行うために事前に使用した薬物の影響で体内のhCGが乱れている可能性などがあるため、期間をおくのです。
これだけ長い期間だと、結果が待ち遠しくてフライング検査をしてしまおうか迷う人も多いでしょう。
結果を待つまでの期間がストレスになる場合や、妊娠初期症状などを感じている場合にはフライング検査もよいかもしれません。
しかし前述したように体外受精を行った場合の妊娠判定は、判定するタイミングが非常に重要です。
そしてあくまで自己診断なので、誤った結果が出ることは念頭に置いておいてください。
新鮮胚移植とはどのような点で異なっているのかなど、胚盤胞移植で知っておくべきポイントをみていきましょう。
胚移植には、受精確認後2~3日培養した新鮮胚移植と、5日間培養した胚盤胞移植があります。
胚盤胞まで育っていることで、胚盤胞移植の着床率は高いです。
そのため、少ない移植回数での妊娠を目指すことができ、母体への負担は軽減されるでしょう。
また自然妊娠の場合、卵子は卵管を通り抜けながら細胞分裂を繰り返して成長しながら子宮にやってきます。
そのため、初期胚移植よりも成長の進んだ胚盤胞移植のほうが、自然妊娠に近い形で受精卵を子宮に戻すことができます。それも1つのメリットです。
胚盤胞移植のデメリットももちろんあります。
その1つが、胚盤胞まで育たなければ移植できないことです。
もしかしたら初期胚で移植をしたら着床していたかもしれない受精卵が、胚盤胞まで育たなかった受精卵の中にあったかもしれません。
その可能性が失われてしまうのです。
培養液での受精卵の培養技術は、昨今とても高度になってきています。
しかし現時点で体外で育てることができる限界が胚盤胞であるように、体外での培養は受精卵にも多少なりとも負荷がかかっているのです。
胚盤胞移植の場合、専用の培養液の中で細胞が分裂を繰り返します。
その収縮拡張の繰り返しの中で、内細胞塊が断裂するので、一卵性双生児がうまれやすくなります。
女性の中には「かわいいから双子がほしいわ」という人もいるかもしれません。
しかし実際に妊娠した場合、母体に大きな負担がかかり、出産時も帝王切開になるなど母子ともに命の危険が高くなるのです。
日本生殖医学会倫理委員会が2007年に、多胎妊娠の減少のために子宮に戻す胚の数などを厳しく規定しました。
それにより不妊治療による多胎妊娠は減少していますが、多胎妊娠は甘いものではないことを覚えておきましょう。
胚盤胞移植は、胚盤胞の培養なども行わなければならないため、初期胚移植よりも高額な費用がかかります。
しかし同時に着床率も上がるため、初期胚移植よりも移植回数を減らすことができる可能性も秘めています。
そのためどちらのほうが費用がかかるのか判断するのは難しいです。
どちらにしろ体外受精は時間もかかり、費用もかさんでしまうものです。
成功まで治療を続けるためには、助成金などを申請して、費用面での負担を軽減するとよいでしょう。
移植後にどのように過ごしたらよいのか悩む人もいます。
子宮に入った受精卵はそれほど自然妊娠のときと大きく変わりません。
着床前の受精卵は子宮内を漂っているものですし、着床した受精卵は絨毛を伸ばししっかりと子宮内膜に潜り込んでいるので、軽い運動により着床が失敗することはほぼありません。
激しい運動は避けたほうがよいかもしれませんが、軽いヨガやストレッチ、ウォーキングなどは体を温め血流をよくすることにもつながるのでよいです。
避けたほうがよいものとしては、妊娠によくないとされるような嗜好品などです。
アルコールやカフェインの取りすぎはよくありません。
またストレスをためない生活を心掛け、栄養素をしっかり体に取り入れましょう。
心身ともに大きな負担がかかる体外受精。少しでも成功率を上げたいものです。
そのためにはどのような治療法があるのか知っておくことは重要です。
たとえば新鮮胚移植に数回失敗した場合、医師から別の提案がないと不安になりますね。
その際に胚盤胞移植について相談してみたり、セカンドオピニオンを聞いてみるのもよいです。
自分の幸せにつながることなので、しっかりと納得できる治療法をみつけましょう。