不妊治療を続けていく中で、顕微授精を検討している人もいるかもしれません。
ですが体外受精とどう違うのか、リスクはあるのか、気になりませんか?
顕微授精を検討するときの手助けとなるように、他の授精方法との違いやリスクについて詳しくお伝えしていきます。
まずは顕微授精とはどんな方法か、過程や費用についてお伝えします。
具体的な方法を知っていると、病院で説明を受けるときにも理解が早まります。
顕微授精とは、体外で卵子へ精子を注入して受精させたあと、それを子宮へと戻す治療方法です。
顕微鏡で精子を選び出し、確認しながら直接卵子へ注入するのが特徴です。
人工的に受精を行うため、無精子症の男性であったとしても1つでも精子が見つかれば受精する可能性があり、精子を拒絶してしまう抗精子抗体を持つ女性でも妊娠をサポートできるとされています。
体外受精と似ているように感じられますが、体外受精の場合は培養液の中の卵子へと精子が受精するのを待つのに対し、顕微授精では1つの精子を選び出して卵子へ注入します。
まず質のよい卵子を確保するために、ホルモン剤を投与して卵子を成長させます。
質の卵子が得られたら、精液に対して、運動精子回収法という処理を施したうえで、運動している精子を集めます。
これと並列して採卵した卵子の卵丘細胞を、酵素処理で除去していきます。
顕微鏡で観察しながら、専用の細いガラス針で精子を1つ選び出し、この卵子へと精子を注入します。
受精が成功したら、受精卵を培養して発育を待ちます。
ここからは体外受精と方法は同じで、受精卵が発育したら子宮の中へと移植します。
自然に妊娠する場合には、どうしても精子の数がある程度必要となります。
ですが、数が多いことと、妊娠できるかどうかの確率はイコールではありません。
たとえ1個しかない精子だったとしても、妊娠できる確率が上がるのが顕微授精です。
体外受精の場合は、卵子に対して受精できる条件が揃った精子が、体の外ではありますが自然に受精することができます。
ですが顕微授精では、活動している精子を選び出すことはできても、その精子が本当に卵子を受精させる条件がそろった精子なのかは、現時点では調べることができません。
現時点では、子供の染色体異常の発生や形態異常が起こる可能性が、体外受精より多いかどうかは不明です。
そのほかにも、まだ知られていないリスクがある可能性があります。
そのため不妊治療のなかでも、この方法を選ぶことでしか妊娠できない夫婦に対して行う、最終段階の方法と考えられています。
顕微授精にかかる費用は、使用するホルモン剤などの種類、実施する病院、胚移植の方法などによっても異なります。
平均すると費用は40万から60万円ほどといわれていますが、卵子1個に対し精子を1つ注入する過程を1回行うごとに、数万円かかります。
妊娠の成功率を上げるためには複数回、これを繰り返す必要があり、結果として高額になりがちです。
ですが顕微授精は、国や都道府県から助成金が支給される不妊治療の1つです。
市町村単位でも、助成金を独自に用意しているところもあります。
もらえる額や申請期間が都道府県や国ごとで違うので、あらかじめ調べておくことが大切です。
医療費控除を受けられるように、治療を受けたときの書類や明細書は、必ず保管しておきましょう。
不妊治療中は結果に意識が向きやすいので、書類の扱いがおろそかになってしまうこともあります。
入れておく場所を決めておいたり、パートナーと定期的に確認したり、お互いに協力することが大切です。
顕微授精のメリットは、自然妊娠では卵子に到達できない精子から、受精卵を得られることにあります。
つまり重度の男性不妊でも、妊娠できる可能性があるのです。
男性不妊の原因のおよそ9割が、造精機能障害といわれています。
ホルモン分泌の異常、精巣の異常など理由はいろいろありますが、精子をつくりだす機能そのものに、問題がある状態です。
精液は作れても精子が含まれる数が少ない乏精子症や、精子はあっても運動率が低い精子無力症の人にとっても、顕微授精は有効です。
男性だけに見られるクラインフェルター症候群の患者さんでも、受精卵を得られる可能性があるといわれています。
少ない精子の中から1つだけ精子を選び出して直接卵子へ注入するため、体外受精よりも受精できる可能性が高くなります。
もう1つのメリットが、精液の中にまったく精子がいない無精子症や、奇形精子であっても受精できることです。
顕微授精は直接卵子へ精子を注入するため、無精子症でも精巣の内部や精巣上体などに、精子が1個でもいれば受精卵を得る可能性が生まれます。
奇形精子も、同様です。
本来なら卵子に到達することができない精子でも人工的に受精できる、顕微授精ならではのメリットです。
どうしても自分の精子で子供を欲しい、と考える男性にとっても、選択の余地が生まれる治療方法といえます。
気になるのは、顕微授精で妊娠できる確率の高さです。
年齢によっても、確率は変化していきます。
特に、加齢によってその確率は減少していく傾向にあるようです。
顕微授精によって妊娠できる確率は、日本生殖医学会によれば約50~70%です。
受精卵を得られた場合でも、子宮へ移植するまでの間に受精卵が元気に育つことができなかったり、胚移植後に成長できなかったりして、妊娠できない場合があります。
妊娠できる確率は、男性、女性ともに35歳以降から徐々に減少していきます。
女性側の理由としては、
・婦人科疾患への罹患率が上がる
・流産の確率の上昇
・加齢に伴う卵子の質の低下
が挙げられます。
卵子は生まれたときにすでに、一生分の卵子が体内で作られているため、自身の年齢と同じだけ年をとっているといえます。
この老化のメカニズムは2018年2月時点では解明されておらず、残念ながら予防方法も存在しません。
男性側も加齢が進むことによって、
・精子量、精液量が減少する
・精子運動率が減少する
といった理由から自然妊娠の確率も、顕微授精のような生殖補助医療による妊娠の確率も減少していきます。
高齢のパートナー同士である場合、理由の有無に限らず、妊娠の確率はより低下してしまうのが現状です。
年齢が進むごとに、妊娠の確率の低下は顕著になります。
不妊治療をはじめる年齢が若ければ若いほど有利といわれているのも、この確率の低下に由来します。
日本産婦人科学会2014年統計によれば、女性の妊娠率は40歳になると24.8%、45歳では6.5%まで低下してしまいます。
また男性の40歳以上が流産へ与える影響は、女性の35歳と同等であるという報告もあります。
重度の男性不妊でも妊娠の可能性がある顕微授精には、生まれてくる命への影響や、流産のリスクなどが存在します。
運動している精子、つまり生きている精子を選び出す顕微授精ですが、その精子が本当に受精に適したものかは現状では確認する方法がありません。
精子の質は、妊娠の確率にも影響をあたえます。
たとえば男性不妊の遺伝子を受け継ぐことで、確率は違えど子供も父親と同じ疾患を抱える可能性もあります。
また無精子症や、乏精子症の男性は、染色体に異常をもつ可能性も低くありません。
また見た目ではきちんと運動している精子だったとしても、確実に受精できるとは限りません。
すると結果として、顕微授精が高額になりやすい理由である、卵子への精子の注入を繰り返す必要が生まれ、治療費がかさむ可能性もあります。
こうしたケースを防ぐために、事前に男性の精子の質を調べることを勧めている病院もあります。
加齢に伴い、妊娠できる確率そのものが低下することをお伝えしたように、顕微授精で受精卵が得られても流産してしまう可能性があります。
流産の原因は染色体異常のある受精卵が、途中で成長できなくなってしまうことにあります。
もし受精した精子、あるいは卵子に染色体異常があった場合、移植しても流産する可能性はどうしても付きまといます。
その確率はけして低いものではないため、治療を受ける際にはそのリスクを十分に理解したうえで臨むことが大切です。
顕微授精では卵子を得るために、排卵誘発剤を使用します。
この排卵誘発剤を使用することで「卵巣過剰刺激症候群(OHSS)」になる可能性があります。
排卵誘発剤によって過剰に刺激された卵巣が膨れ上がり、お腹や胸に水がたまるといった症状が起きることをいいます。
初期の段階であれば、使っている排卵誘発剤を中止することで症状が改善することが多いです。
しかし重症化すると、腎不全や血栓症になるリスクがあります。
お腹が張る、急に体重が増えた、吐き気が出る、おしっこの量が少なくなるといった初期症状が出現するため、排卵誘発剤を使う中でこうした症状があった場合には、早めに医師や薬剤師へ連絡しましょう。
男性不妊が重度であっても妊娠できるとして、顕微授精を選ぶ人もたくさんいます。
男女の加齢により妊娠の可能性が低下していくことが分かっている以上、できるだけ早期に治療を始めることが不妊治療では求められます。
高額な治療であっても、子どもを授かるためならと、何度もチャレンジするご夫婦もたくさんいます。
ですが、そこには生まれてくる命だけでなく、母体へも影響を与えるリスクが存在します。
パートナーとよく話し合い、妊娠の計画を立てていくことが大切です。