顕微授精(ICSI)は、人工授精や体外受精では受精や妊娠に至らなかったときに採用する治療法です。
不妊に悩むカップルにとっては、比較的成功率の高い大切な治療法のひとつですが、必ず受精・妊娠できるわけではありません。
では、成功率を高める方法はあるのでしょうか。
顕微授精の仕組み、受精しない理由を理解することで、少しでも成功率・妊娠確率を上げていきましょう。
精子と卵子が受精して、受精卵ができあがるまでには、次のようなプロセスを辿ります。
1. 精子が卵子を覆う膜の透明帯を破る
2. 卵細胞を覆っている卵細胞質膜と融合し、卵細胞質膜内に引き込まれる
3. 精子がカルシウムを分泌することで卵子が活性化し、卵子の前核が形成される
4. 卵子の前核と精子の前核が融合し、受精卵が形成される
顕微授精では、1と2のプロセスを飛ばし、精子を直接卵子内に注入するため、受精する可能性が高まり、受精率は約50〜70%といわれています。(妊娠率ではなく、受精卵ができる確率です。病院により数値が異なります。)
卵子と精子が本来もっている受精能力を発揮できるように、両者が出会うまでの障害を取り除くのが顕微授精で、卵子や精子に問題がある場合には受精しない可能性があります。
顕微授精でも受精できない理由はいくつかあります。
「卵子の成熟度が低い」「精子が古い、奇形がある」など、卵子や精子に何らかの問題がある場合は、受精することができません。
成熟度が低い卵子は、精子を注入された後、カルシウムの分泌を受けても活性化することができず、受精に至らない可能性があります。
精子が古い、奇形があるなどの場合も、卵子を活性化させるカルシウムの分泌がうまく作用しないことがあります。
精子や卵子に何らかの問題がある場合、顕微授精によって卵子と精子を接触させてはいるものの、卵子の前核が形成されないという状態になるからです。
また、受精しない大きな理由としては、治療を受ける年齢が大きくかかわってきます。
体外受精と顕微授精を合わせて、33歳までの出産確率は約20%に対し、40歳では8.8%、45歳では0.8%にまで下がります。
顕微授精の受精率を高めるためには、できるだけ卵子や精子の質を高めておくことです。
質のよい卵子や精子が採取できれば、それだけ受精する確率が高くなるからです。
そのために大切なのは、生活習慣を見直すことです。
以下の点に注意しましょう。
・冷え性対策
女性の体は男性に比べて脂肪分が多いため冷え性になりやすいものですが、冷え性は血行不良を引き起こし、卵巣や子宮といった臓器の働きを阻害してしまいます。
・適度な運動を心がける
運動によって血流を良くすることで、卵巣から出るホルモンや子宮内の環境が改善されます。
・十分な睡眠時間
睡眠時に分泌される睡眠ホルモンは、睡眠中に傷んだ細胞を修復する働きがあるため、十分な睡眠時間を確保しましょう。
・ビタミン類の摂取
細胞の老化は、体への酸化作用によって起こるため、卵子や精子の質を保つために抗酸化作用のある食べ物(アボカド、柑橘類、いちご、トマト、かぼちゃ、アーモンドなどの木の実類)を摂取しましょう。
その他にも、精巣をあたためない、陰嚢を圧迫しない、自転車やバイクに長時間乗らないといった、精子の劣化につながることは避けるようにしましょう。
喫煙は、精子にも卵子にも悪影響を及ぼすとされています。
精子のDNA構造が傷つけられると、受精がしにくくなり、受精卵の質を低下させる可能性があります。
顕微授精の成功率を上げる鍵は、女性の妊娠力と、男性の精子力の2つです。
この2つの健康状態を上げる取り組みを意識することで、顕微授精の成功率を上げることが期待できます。
そのためには、生活習慣の改善が有効となります。
これは女性と男性の両方に当てはまることですので、ぜひ夫婦もしくはカップルで意識改革に取り組んでみてください。
質のよい睡眠や栄養バランスに優れた食事、適度な運動を習慣化するだけでも血流アップにつながり、妊娠しやすい体づくりとなり、顕微授精における成功率を上げることが期待できます。
日本産科婦人科学会によると、2014年度に顕微授精で生まれた赤ちゃんの数は5,702人にものぼります。
また体外受精も含めて、受精を行った後で凍結した胚を移植する凍結胚移植では、36,595人の赤ちゃんが誕生しています。
顕微授精は、日本ではまだ認知度が低く、不安を抱く人もいますが、年々出生数が増えていることは、紛れもない事実です。
妊娠率の高い顕微受精は、不妊治療では最後のステップといわれています。
顕微授精を受ける決断も、また取り組んでいる間も、大変なことがあるに違いません。
でも、待ちに待った赤ちゃんに出会うための時間だと思って取り組んでください。