「人工授精」という言葉はよく聞くけど、具体的にどんなことをするのかは分からない。
と言う方もいらっしゃるのではないでしょうか。
この記事では実際の治療の流れを知り、成功率を上げるポイントを押さえて、治療についての理解を深めましょう。
治療法を選択する際の判断材料として、参考にしてくださいね。
不妊治療の方針は病院によって多少違いがありますが、基本はタイミング法、人工授精、体外受精の3つのステップがあります。
人工授精は、タイミング法が成功しなかった場合にステップアップすることの多い治療法です。
人工授精の具体的な治療方法と、成功率を上げる方法を見ていきましょう。
基礎体温の記録からグラフを作成し、排卵日を予測します。
排卵が起こる確率は、最低体温日前日が5%、当日が22%、翌日が40%、翌々日が25%で、最低体温日前後の4日間が高くなっています。
このデータからおおよその排卵日を予測し、治療の計画を立てます。
排卵が定期的に起こらなかったり、排卵自体がほぼない場合などには、排卵誘発剤を使用して排卵を促します。
排卵予測日が近づいてきたら、経腟超音波検査で子宮内膜の厚さや卵胞の大きさを測り、排卵日を正確に把握します。
卵胞が直径20mmに成長したら排卵に至るとされており、自然周期では1日に約2mmずつ成長するため、計算して排卵日をより正確に予測します。
排卵日の予測をさらに確実にするため、多くの病院で排卵検査薬を併用します。
排卵予測日の数日前から毎日検査薬で尿検査を行い、排卵の指令を出す黄体形成ホルモン(LH)の陽性反応を待ちます。
予測日直前の検査だけでは、黄体形成ホルモンの大量分泌=LHサージが終わったあとで反応しない可能性があるので、検査開始の指示には必ず従いましょう。
LHサージ開始からおよそ36時間後に排卵が起こるといわれています。
多くの場合、排卵検査薬で陽性反応が出た翌日に、人工授精を行います。
都合がつかず翌日に来院できない場合は、排卵誘発剤を使用して排卵を促し、陽性が出た当日に人工授精を行うこともありますので、主治医とよく相談しておきましょう。
採精は人工授精当日に、男性本人が行います。
病院から渡される専用の容器に自宅で採取して持参する場合と、男性も来院して病院の採精室で採取する場合があり、どちらかを選べる所もあります。
不妊専門の病院なら、採精室には個室が用意されていることが多いです。
採取した精子の状態を顕微鏡で確認し、その後1時間ほどかけて洗浄と濃縮を行って、受精に適した状態に調整します。
感染症予防のため雑菌や白血球を取り除き、人工授精に使用する健康な精子を選別します。
選別法にもいくつか種類があり、質のよい精子を選別する方法、運動性の高い精子を選別する方法など、状態に応じて選択されます。
精子を採取したら、できるだけ早く人工授精を行うことが望ましいとされています。
自宅で採精するときは、採取後1~3時間以内に病院に持参する必要があります。
制限時間は病院によって異なりますが、人工授精当日に採精できないと予想される場合、あらかじめ精子を採取して凍結しておく方法もあります。
その場合、処置当日に融解処理を施し、人工授精に使用することができます。
柔らかいカテーテルを使用して、膣から子宮内へ洗浄濃縮した精子を注入します。
処置自体は数分で終わり、痛みはほぼありません。
人工授精が精神的、肉体的負担が少ないといわれる理由は、こうした所要時間の短さや苦痛の少なさにあります。
処置後はたいてい10分程度ベッド上で安静にしてから、会計後、帰宅します。
感染症の予防のため、抗生物質が内服薬で処方されます。
妊娠には影響しない薬なので、必ず服用しましょう。
人工授精の翌日に再来院し、排卵が起こったかを超音波で調べる病院と、来院不要な病院と、処置後の対応は分かれます。
病院を選ぶ際にはホームページや主治医の説明などで治療の詳細を確認し、自分が納得できる所を選びましょう。
ちなみに人工授精は保険適用外のため全額自己負担となります。
治療は1回2万円ほどが主流で、体外受精と比べると経済的にも負担が少なく済みます。
その他、ホルモン剤の注射代などがかかります。
排卵から受精、着床までには、約1週間~11日かかります。妊娠反応が出るのはそれからさらに数日後です。
月経周期が28日の場合、排卵から約14日後、つまり人工授精の約13日後の、月経予定日あたりから妊娠を判定できるとされます。
着床直後に胎盤の一部から分泌が始まるhCG(ヒト絨毛性(じゅうもうせい)ゴナドトロピン)というホルモンを尿検査によって調べ、妊娠を判定します。
来院して検査をする病院、とくに検査せず自分で妊娠検査薬や月経の有無で判定する病院、さまざまです。
陽性は出るが子宮内に胎嚢が確認できない段階を科学的妊娠、妊娠5週以降で胎嚢が確認できれば臨床的妊娠と呼び、6週以降に心拍を確認して妊娠の成立となります。
人工授精の後、妊娠しやすい環境にするために、黄体ホルモンを注射や内服、貼り薬で補います。
黄体ホルモンは子宮内膜を柔らかくする働きがあり、着床率を上げることが分かっています。
ホルモン値に異常がなくても、念のため、念押しとして、治療後当日に投与する病院が多いです。
その後も数日かけて複数回補充する場合もあります。
精液中の精子をできるだけ多く、そして健康にするために精子の数や質の改善に役立つとされる栄養素を積極的に摂取しましょう。
精子の数、奇形率、運動性など精液所見を改善させる栄養素としては、ホルモンに働きかけて精子の増殖や運動性の向上をサポートするマカ、精子の数を増やす葉酸、健常な精子形成を助ける亜鉛などが代表的です。
食事で必要量を摂取するのはなかなか難しいことが多いので、サプリメントをうまく活用してみてください。
冷えは妊活の大敵。血流が悪くなると卵巣や子宮に酸素や栄養が十分に行き渡らず、妊娠率が下がることがあります。
身体の中から冷えないように冷たい飲み物は避け、常温か温かいものを口にするようにしましょう。
カフェインや糖分の摂りすぎは冷えにつながるので、コーヒーや紅茶、清涼飲料水などの飲みすぎには気を付けてください。
水を沸かしただけの白湯(さゆ)は、口当たりがよく胃腸にも優しくておすすめです。
下半身の血行促進に効果的なのが半身浴。
38~40℃ほどのぬるめのお湯に、みぞおちあたりまで20~30分間ゆったりと浸かり、子宮や卵巣、骨盤を温め、血流をよくして妊娠率を高めます。
他にも、夏でも靴下をはいたり、デスクワーク時に膝掛けを利用したり、とにかく身体を冷やさないように気を付けて過ごしましょう。
妊活中に生活習慣を見直すのはよくいわれることです。妊娠にホルモンバランスは深く関わっており、不摂生を続けていると自律神経やホルモン分泌に不調をきたします。
受精のしやすさ、受精卵の成熟、着床のしやすさ、妊娠の継続など、すべてにホルモンが影響します。
規則正しい生活を送り、睡眠や食事を十分にとって、妊娠しやすい環境を整えておきましょう。
治療後はその日のうちに帰宅できます。
以降の生活についても、特別に安静にする必要はなく、行動に制限はありません。
人工授精が成功した場合は自然妊娠とほぼ同じ扱いとする見方もあるので、通常の性交後と同じように考えてください。
食事、入浴、軽い運動、夫婦生活も、とくに禁止はされません。
激しすぎる運動は受精に影響するとされますが、これは人工授精に限ったことではなく自然妊娠でも同じです。
例外として、感染症予防のため、入浴を処置当日のみ禁止にする病院もあります。
ただし、明らかな体調不良や出血があるときは身体を休め、不安があれば早めに主治医に連絡して指示を仰いでください。
着床出血など心配のない出血もあります。
いざというときにパニックにならないためにも、人工授精や妊娠についてよく理解しておくことが大切です。
あとは普段通りに、結果を気にしすぎず、ストレスフリーな毎日を送りましょう。
ストレスは妊娠率を下げることが分かっています。
不妊治療中は肉体的にも精神的にもストレスが溜まりやすいですが、うまく発散できるように工夫しつつ、心穏やかに過ごせると理想的です。
基礎体温の記録、排卵日予測のための通院、夫婦共に性感染症の検査、精子の採取など、人工授精を成功させるには男女双方の理解と協力が必須となります。
治療の流れを夫婦で共有し、成功率を高める方法にも2人で取り組んでみてください。
頑張りすぎないことを心に留めて、夫婦でよく話し合い、治療について考えていきましょう。