不妊治療を進め、体外受精までステップアップしてくると自己注射を打たなければならなくなります。
もともと注射自体が苦手な人もいれば、自分で打つことに不安を感じる人もいるでしょう。
必要以上に恐れずに自己注射をするため、必要な知識を持ちましょう。
注射といえば、必要なときに病院で医者や看護師に打ってもらうことが大半でしょう。
しかし体外受精の場合はよりよい卵を育てたり、子宮内膜を厚くしたりするために、自己注射を行う必要が出てきます。
慣れない道具を使い、自分自身に針を刺すという行為に恐怖を感じる女性も少なくありません。
使用する注射にはどのような働きがあり、なぜ必要なのか。
そして薬剤にどのような副作用があるのかをあらかじめ知っておくことで、心の準備をしておくとよいでしょう。
クリニックでは、医者や看護師になかなか注射の詳細まで聞くことが難しい場合もあります。
この記事では、注射に関する種類や費用、副作用、自己注射を打つポイントなどを中心にみていきたいと思います。
体外受精を進めていくと、自己注射をするときがきます。
主な自己注射の種類は3種類です。
注射の種類と費用を知ることで余分な不安を取り除きましょう。
採卵をするために、複数個の成熟した卵胞を育てます。
その際に使用するのが卵胞刺激ホルモンです。
排卵誘発剤と呼ばれる注射薬にはFSH(遺伝子組換えヒト卵胞刺激ホルモン)とhMG(下垂体性性腺刺激ホルモン)があります。
それぞれの違いは、薬剤の内容と、注射の打ち方です。
簡単にいえば、hMGには卵胞刺激ホルモンと黄体ホルモンの混合薬で、FSHは純粋な卵胞刺激ホルモンで黄体ホルモンは含まれていません。
自己注射が認められているのはFSH注射で、お腹や太ももなどの皮下脂肪の多いところに注射します。
そのため痛みはそれほど感じません。
費用はhMGのほうが値段が抑えられ、1回につき1,500~3,000円程度。
FSHは1回につき2,000~6,000円程度となっています。
受精卵が着床するのは子宮内膜です。
LH(黄体形成ホルモンの役割)は、排卵を引き起こす重要な働きがあります。
またエストロゲンやプロゲステロン(黄体ホルモン)といった女性ホルモンの生成にかかわっているのですが、このプロゲステロンには子宮内膜の環境を整え、受精卵にとって居心地のよいふわふわのベッドをつくる役割があります。
卵胞を刺激するhMGと呼ばれる卵胞刺激ホルモンにLHは含まれていて、そのhMGの費用は1,500~3,000円程度となっています。
卵胞が一定の大きさまで育ったら、排卵促進剤を打ちます。
HCG(人絨毛性性腺刺激ホルモン)とよばれる注射薬を打つと、36~40時間後に排卵をすることができます。
体外受精の場合は、採卵日をこのHCGで排卵日を調整し、適切な日に決めるのです。
HCG注射は、卵胞刺激ホルモンのときに使用する皮下脂肪に打つ注射と異なり、筋肉注射です。
そのため強い痛みを伴います。
肩かお尻に打つことになります。
自身がない人は、クリニックで打ってもらうのもひとつの手でしょう。
費用は、排卵誘発剤として使用する目的なら保険が適用されるため500~1000円と安価です。
しかし保険適用されるかどうかは、診察内容や治療方針などにより異なってきます。
もしも保険適用されない場合には、もう少し割高となります。
自己注射により、注射薬を体内に取り入れることで副作用が起こります。
どのような副作用があるのかを事前に知り、心構えをしましょう。
hMGやHCGなどの注射薬の影響で女性ホルモンが高くなりすぎてしまい、「OHSS」とよばれる「卵巣刺激症候群」にかかることがあります。
症状としては、卵巣が腫れて腹水が溜まります。
妊娠したばかりのころや、採卵直後などにも同じような症状がみられるのですが、OHSSの場合はそれがさらに悪化した状態です。
軽度の場合は腫れが卵巣周辺のみで済むのですが、状態が悪化すると腹部全体が腫れたり、血栓症になることがあります。
もしもOHSSになった場合には、できるだけ自宅で安静に過ごします。
そして水分補給をしすぎないように気をつけます。
腹部の違和感や下痢の症状は、「卵巣過剰症候群(OHSS)」の可能性があります。
卵巣過剰症候群は卵巣が腫れて腹水が溜まる症状です。
もしかしたら卵巣が腫れているために、腹部の違和感があるのかもしれません。
軽度の症状は妊娠初期や、採卵直後にみられるものでもありますが、排卵誘発で1.7%、体外受精で6.5%程度が入院を必要とするOHSSになっているそうです。
また、血栓症で死亡するケースも非常にまれですが過去にあります。
心配しすぎて悪いことはありません。
不安な日々を過ごすようでしたら、まずはかかりつけの病院に相談してみましょう。
吐き気が強い場合、もしくは実際に嘔吐する場合には、「卵巣過剰症候群(OHSS)」の可能性があります。
OHSSの場合はほかに下痢や呼吸困難、下腹部痛、腹部が膨れるなどの症状を伴いますので、吐き気だけではなくほかの症状も同時にあるようならば必ず診察を受けたほうがよいでしょう。
眠気の場合はそれほど心配することはありません。
HCG注射を打った場合、黄体ホルモンが増えます。
その影響で眠気が出ることがあります。
黄体ホルモンは、受精卵のベッドである子宮内膜を厚くする働きがあるので、眠気が出ることは決して悪いことではありません。
痛みが気になる自己注射ですが、ポイントを押さえれば痛みが軽減されることもあります。
また注射器や注射薬を正しくとり扱うことでミスをなくします。
製剤は必ず冷蔵庫で保管するように、病院からも指導があります。
家族にもしっかりと知らせ、子供などが誤って触ったり汚したりしないようにしましょう。
さて自己注射のポイントですが、製剤を冷蔵庫から取り出すタイミングです。
注射を打つ30分前に冷蔵庫から取り出し、室温までもどしましょう。
またそれでも不安な場合には、保冷材などで腹部を冷やしておくとさらに痛みを感じにくくなるようです。
使用前には必ず手を石鹸で洗い、器具が汚れないように気をつけます。
そして、消毒面で腹部を消毒する際には、局部だけではなく腹部を広めに消毒してください。
卵胞刺激ホルモンの注射の場合は、お腹の脂肪の多い部分に注射することになります。
そのため筋肉注射に比べて痛みが感じにくいです。
皮下脂肪に注射をする際のポイントは、消毒後にお腹の脂肪の多い部分をつまみ、45度くらいの角度で注射部位にむけて根元まで注射針を刺します。
もしも強い痛みを感じるようならば、それは痛点を刺してしまったからかもしれません。
場所を覚えておき、次回はそれを避けるようにしましょう。
逆に、痛くなかったポイントがあれば、注射跡がなくなったころにまた同じ場所を狙って打つとよいでしょう。
針が皮下脂肪に根元までしっかりと刺さったら、ピストンを少し持ち上げ、血液が逆流しないか確認をします。
しっかりと皮下脂肪に刺さっていれば血液は逆流しません。
逆に血液が逆流するようなら血管注射になってしまっているのでやり直す必要があります。
血液が逆流しないか確認後、落ち着いてゆっくりとピストンを押します。
ピストンは最後まで押して、薬剤をすべて注入してください。
急がずゆっくり薬剤を入れることで痛みが多少軽減されるようです。
痛点を刺してしまった場合など、強い痛みを感じることがあります。
そのときにはゆっくりと息を吐いてみましょう。
深呼吸にはリラックス効果があり、痛みを多少ですが軽減することができます。
角度によるのか、それとも刺す場所により異なるのか、ひどく痛いこともあれば、まったく痛くないこともあります。
痛かったときには「痛いのも今回だけ、今回だけ」と思ってみるのもよいかもしれません。
自己注射を始める前までは非常に不安かもしれません。
痛みの程度もわからなければ、失敗する不安なども抱えているからです。
しかし「案ずるより打つがやすし」です。
実際に数回打ってみれば、意外にも慣れてしまうものです。
まずは初回の数回を乗り切るために、しっかりと注射を打つコツを覚えておきましょう。
またなにかあったときにすぐに病院に相談できるように、自己注射は病院のやっている時間内に打つとよいかもしれません。
恐れずに自己注射にトライし、不妊治療を成功させましょう。