体外受精は、人工授精とはスケジュールがかなり変わります。
通院の機会も増えるため、治療の具体的な流れを自分で把握しておき、夫婦でも共有しておきましょう。
普段の生活への影響を減らし、体に負担の少ない計画を立てるためのコツをアドバイスします。
体外受精と一口にいっても、具体的なスケジュールは患者によって異なります。
体の状態やライフスタイル、本人の希望に合わせて、医師が最適な治療方法を提示してくれますが、体外受精の大まかな流れは事前に理解しておくのが理想です。
身体的にもスケジュール的にも、無理のない治療を行うために、体外受精の基礎知識をチェックしていきましょう。
患者の状態によって、また病院によって治療方針やスケジュールの組み方には違いはありますが、基本的な流れを把握しましょう。
卵子を採取=採卵する方法は大きく分けて「高刺激法」と「低刺激法」の2つがあります。
高刺激法は薬剤を使用して卵巣を刺激し卵胞の成熟を促す採卵法であり、一度の採卵で複数の卵子を得られるのがメリットです。
薬剤の種類や量、投与期間によって「ショート法」「ロング法」「アンタゴニスト法」などに分類され、単に「刺激法」と表記されることもあります。
月経周期に合わせた開始のタイミングなどが異なりますが、いずれも排卵を抑制する点鼻薬や卵胞の発育を促す注射を連日投与し、卵胞が十分に育ったと医師が判断した時点で排卵誘発剤を使用し、排卵直前に採卵を行います。
高刺激法は排卵のコントロールが容易でスケジュールが立てやすい一方、薬剤の刺激によって「卵巣過剰刺激症候群」になるリスクがあります。
注射の回数も多いため、女性側の負担と費用が増加します。
低刺激法の1つである「自然周期法」では、薬剤をほぼ使用せず自然の周期に任せるため、一度の採卵で1つの卵子を得られます。
採卵前に排卵してしまう可能性や、受精卵の培養に失敗し胚移植できないことも起こり得ますが、治療費や体への負担は軽減されます。
採卵方法には向き不向きがあり、適応されるかどうかは医師の判断に委ねられます。
説明を受けてそれぞれのリスクを理解した上で、自分の希望を医師に伝えましょう。
通常、卵胞は1日におよそ2mmずつ成長し、20mmを超えたときに排卵が起こるとされます。
薬剤を投与しながら排卵を抑えつつ卵胞の成熟を待ち、排卵予測日が近づくと超音波検査によって医師が卵胞の状態を確認します。
卵胞の大きさを測り、日数を計算して排卵日を確定し、今後のスケジュールを立てます。
排卵してしまうと採卵することができないので、この排卵日確定はとても重要な過程となります。
数日間、自然排卵を抑制する薬剤をさらに投与する場合もあります。
スケジュールの一例として、確定した排卵日の2日前の夜に、卵胞をさらに成熟させる薬剤を投与します。
投与の24~36時間後に排卵が起こるとされているもので、排卵直前に卵子を採取するため、翌々日の朝に再来院します。
膣壁から卵巣へ針を刺し、卵胞内にある排卵直前の卵子を吸引します。
成熟した卵胞すべてから正常に採卵できるとは限らず、数十個の卵胞が育ったとしても数個ほどの卵子しか採取できないこともあり得ます。
作業自体は大抵20分以内に終了します。
麻酔を使用するため、前日の夜から飲食に制限がかかります。
採卵後は1~2時間の安静が必要ですが、その日のうちに帰宅できます。
麻酔の影響で眠気や倦怠感が残る可能性があるので、車の運転や自転車に乗ることは避けてください。
基本的には、採卵と同日に採精=精子の採取も行います。
取り出した卵子と精子を培養液の中で受精させ、受精卵を得ます。
分裂を始めた卵=胚を育てることを胚培養と呼びます。
うまく分裂が進めば2~3日で初期胚、5~6日で胚盤胞(はいばんほう)と呼ばれるステージに成長し、着床に適した状態になります。
胚培養は、自然妊娠の際に受精卵が卵管を移動する間に起こる現象を、人工的に起こすものです。
胚培養士と呼ばれる専門の技術者によって行われます。
分裂がストップして胚が育たないと、移植を行うことができず、失敗となります。
胚を複数得ることができれば移植のチャンスが増えます。
すべての胚が失敗になると、再び採卵から行うことになります。
受精後2~3日の初期胚を子宮に戻すのが分割期胚(初期胚)移植、5~6日で行うのが胚盤胞移植です。
初期胚移植の妊娠率は40%、胚盤胞移植では50%といわれます。
初期胚と胚盤胞のどちらも移植するのが二段階胚移植で、妊娠率はさらに向上しますが、多胎妊娠の可能性があります。
胚の培養液を子宮へ注入後、胚盤胞を移植するSEET(シート)法を用いると、比較的高い妊娠率を維持したまま、多胎妊娠を避けることができます。
胚移植の方法は、医師と相談しながら決めていくことになります。
保存していた凍結胚を使用する場合、胚移植のスケジュールを組む段階からのスタートとなり、精神的、経済的などあらゆる面で負担が軽減されます。
体外受精には男性側の協力も不可欠。スケジュールを夫婦で共有しておきましょう。
男性不妊の有無や原因を調べるため、精液検査を行います。
病院で採精するか、自宅で採取して持ち込むかを選べる病院も多いです。
検査では精子の数や運動性、奇形率などがどのような状態かを確認し、体外受精が適応されるかどうかを判断します。
採血して性感染症についても検査します。
検査結果が出るタイミングは病院によって違い、当日中、または数日後に分かります。
精子の数が著しく少ないなど精子所見が思わしくない場合、体外受精ではなく顕微授精の検討を勧められるケースもあります。
精子の状態は日によっても変わるので、検査を複数回受けるよういわれることもあります。
検査後は採卵のスケジュールについて医師から説明を受け、通院の予定を立てます。
治療のために採精する際に精子の状態を良好にするため、多くの病院が、採卵当日までの禁欲期間を指示します。
禁欲=射精をしないことです。
精子は、禁欲すればするほどよいというものではなく、適度に造精を繰り返しておかないと質が低下してしまうといわれています。
しかし射精をしすぎてしまうのも、精子の質を考えると問題です。
最低でも1~2日程度、長い場合だと1週間ほどの禁欲が必要とされ、採卵当日までに精子を溜めておくのが理想です。
採卵当日に夫婦そろって来院し院内採精するか、専用の容器に自宅採取して持参します。
病院には採精のための個室が用意されていることがほとんどです。
自宅から持っていく場合は、採取してから1~3時間以内に病院側へ渡す必要があります。
時間制限については病院によって違いがあるため、よく確認しておき、通院時間を考慮して判断しましょう。
治療当日に採精が難しい場合、精子を凍結保存しておく方法もあります。
事前に採取した精子を洗浄、調節した後、-196℃の液体窒素内で保存します。
精子の状態によって数本に分割して保存することもできますが、治療1回に必要な分が決まっているので不可能な場合もあります。
精液所見が悪く一度の採精で1回分に足りない場合は、数回に分けて採精する必要があり、凍結保存しながら必要量を確保します。
この判断は精液検査の結果でなされます。
胚を移植した後の流れです。
胚を移植した直後は、30分ほど安静にします。
麻酔を使用した場合は2時間ほど安静が必要です。
気を付けるべきことは、激しい運動の禁止です。
これは自然妊娠でも同じことで、激しすぎる運動は着床率を下げるといわれています。
そのほかはとくに制限はなく、普段通り過ごせます。
規則正しい生活と体を冷やさないことを心がけ、ストレスを溜めないように気を付けましょう。
治療後、胚が着床しやすくなるよう黄体ホルモンを注射や内服で補充します。
黄体ホルモンは子宮内膜を厚く柔らかくして妊娠しやすい環境を整えるほか、妊娠の継続をサポートする物質です。
患者のホルモン値に異常がなくても、妊娠を後押しする意味で補充する病院が多いです。
治療当日のみ、当日から数日間、妊娠判定日まで毎日など、補充する期間は病院によって異なります。
胚移植から約2~3週間後に妊娠判定日が設定されます。
初期胚が着床するまでには3~5日、胚盤胞では1~2日かかります。
着床=妊娠すると胎盤からhCG(ヒト絨毛性(じゅうもうせい)性腺刺激ホルモン)が分泌され始め、3~4日経つと尿に排出されるようになります。
hCGホルモンの尿中濃度が一定量に達すると、妊娠検査薬が陽性を示します。
病院での妊娠判定が待ちきれない場合は、ドラッグストアなどで市販されている「フライング検査薬」が利用できます。
生理開始予定日から使用できる早期妊娠検査薬と、生理予定日の1週間後から使用できる一般的な妊娠検査薬があります。
注意点として、着床直後のhCGホルモン分泌量はごくわずかなため、検査薬の使用が早すぎた場合は、仮に妊娠していても陰性が出ることがあります。
水分の摂りすぎで尿中濃度が低くなり、陰性になる場合もあります。
また、治療でhCGホルモンを投与していると、妊娠していなくても陽性になる可能性が出てきます。
市販の検査薬はあくまで補助的なものなので、過信するのは避けましょう。
フライング検査薬で陽性が出ても、病院が指定した妊娠判定日には必ず来院するようにしてください。
働きながらでも治療を続けたい。上手に両立するにはどのような方法があるでしょうか。
通院のたびに休みを取得する必要があると、治療が続けにくくなることも。
仕事帰りに立ち寄れる距離というのも、病院選びの重要なポイントです。
治療方針や得意とする治療方法の違いなど、職場からの近さだけで決めるのは難しいこともありますが、できるだけ生活圏内にある病院を選びましょう。
なにより、通院がストレスにならないのが大切です。
どんなにうまくスケジュールを組んでいても、体調や通院などの面で、治療が仕事に影響することが予想されます。
直属の上司に事情を話し、いざというときに対応してもらえるように、環境を整えておきましょう。
事前準備は自分自身にとって有益なだけでなく、周囲への負担をできる限り抑えるという点でも重要なことです。
仕事と治療を両立していくために、最低限の根回しは必須といえます。
刺激法を選んだ多くの場合、排卵誘発剤を連日注射する必要があります。
注射の回数は採卵方法の種類によって変わりますが、少なくとも1週間以上毎日通院するのは、時間的にも精神的にも負担となります。
通院回数をできるだけ減らすために、自己注射を検討してみましょう。
病院で注射のやり方や薬剤の保存の仕方、打つタイミングなどを教えてもらい、自宅で、自分で自分に注射する方法です。
注射のためだけに通院する日を減らすことができ、仕事や生活への影響が少なくなります。
ただ、医師が決定した注射の回数自体を減らすことはできず、注射の痛みにも耐えなければなりません。
病院でやってもらう場合、自己注射の場合、どちらも薬剤の効果は同じなので、自己注射が選択可能ならチャレンジしてみましょう。
平日に休みがとりにくい仕事をしているなら、土日に診療している病院を探しましょう。
排卵日をコントロールしやすい採卵方法を選んだ場合、土日に合わせてスケジュールを組むこともできます。
朝早い時間や、夜遅くまで受診できる病院だと、平日の通院も都合が付きやすくなります。
病院選びの際に、診療日と時間も条件に入れてチェックしてみてください。
高刺激法に比べ、低刺激法は通院回数が少ない傾向にあります。
注射の回数が減って内服になったり、薬剤の使用期間が短縮されることで、病院で行う作業が減るのです。
通院回数や副作用などの点では、自然周期法が最も負担が軽いといわれます。
まず排卵日を予測し、その数日前から卵胞の状態を確認するほかは、通院は必要ないことが多いです。
低刺激法は、注射や通院の回数が抑えられる分、費用と、副作用の出る確率が下がります。
ただし、得られる卵子の数が、高刺激法よりも基本的に少ないというデメリットがあります。
利点やリスクを生活スタイルと照らし合わせ、自分に合った治療方法を選びましょう。
ストレスは着床率を下げるといわれているので、妊活中は可能な限り心穏やかに過ごしたいものです。
いろいろな選択肢があることを覚えておき、医師と相談しながら、自分にとってよりよいスケジュールを組んでいきましょう。
治療自体が苦痛になってしまっては本末転倒ですよね。
パートナーの理解を得ることはもちろん、周囲の協力も仰いでみてください。