自然妊娠で限界を感じた夫婦が、体外受精へと方向転換することは、現代では珍しいことではありません。
そんな体外受精は、自然妊娠よりも確実に妊娠できると考えている人が多くいます。
その実態と、体外受精を何度も行うリスクについて解説します。
妊娠の一つの方法として、認知度が高まり施術例も増えている「体外受精」。
体外受精ならば、確実な妊娠が可能と思って施術に踏み切る人もいます。
しかし実際は、体外受精においても100%確実に妊娠できるわけではありません。
体外受精をするからには、早く子供を授かりたいと思うことが普通です。では、体外受精においては一体何回目で妊娠できるのか、その実態を見てみましょう。
体外受精の成功率は、自然妊娠同様に母体の年齢が大きく関係してきます。
若ければ若いほど、体外受精で成功する確率も高いといえるのです。
その確率を、年代別に見てみましょう。
日本婦人科学会2015年データによると、母親が30歳の場合の体外受精成功までの回数は、2.4回とされています。
つまり、平均すると、2~3回で大半の夫婦が、妊娠に成功できるということになります。
これは、胚移植あたりの妊娠率が42.1%ということになります。
この数字を見る限り、自然妊娠よりも確率が高いように感じられます。
しかし、最近では晩婚化が進んでいるので、30歳で体外受精に踏み切る夫婦は、あまり多くありません。
まだ若いから自然妊娠できると信じて、体外受精を受けない夫婦が多くいるのです。
35歳の場合には、約2.6回で妊娠にいたるという結果が出ています。
これは、日本婦人科学会の2015年データで、胚移植あたりの妊娠率は38.1%です。
35歳を過ぎると、初産では一般的に「高齢出産」に分類されるようになります。
高齢出産では、あらゆるリスクが飛躍的に高くなるとされています。
流産や早産、死産や障害のリスクなど、これは高齢出産では避けることはできません。
そのため、35歳で体外受精に切り替えるという夫婦も多くなっているのです。35歳は、こうした意味で、体外受精へと切り替える大きな分かれ道のタイミングといえそうです。
日本婦人科学会2015年データを見ると、40歳での体外受精成功までの回数は、約3.8回となっています。
胚移植あたりの妊娠率は26.1%となり、30歳の場合に比べると、18%ほど減少していることになります。
それでも40歳での体外受精は、3~4回で成功することが多くなっているのです。
自然妊娠では、40代になると妊娠率が大幅に減少してきます。それを考えると、この確率は高いといえるのかもしれません。
また、40代という大台にのるので、これを機会に体外受精に踏み切る夫婦も多いのです。
43歳の場合を見てみてると、日本婦人科学会2015年データで約6.9回と出ています。
40歳から3年しか変わらないのにもかかわらず、2倍近くも回数が増えていることが分かります。
胚移植あたりの妊娠率は、14.4%となり、こちらも大幅に減少しています。
しかし最近では、晩婚化が進んでいることや医療の発展が目覚ましいこともあり、43歳頃での妊娠も珍しくなくなってきました。
体外受精では、回数こそ必要になる可能性はあるものの、不可能ではないといえるのです。
43歳で約6.9回と出ていた体外受精の成功回数ですが、44歳になると約10.2回と、飛躍的に多くなってしまいます。
たった1年の違いですが、40代に入ると加速度的に妊娠率が落ちていくことがよく分かります。
こちらも、日本婦人科学会2015年データによるもので、胚移植あたりの妊娠率は、9.8%と大変低くなっています。
40代も半ばとなってくるこの年齢では、体外受精による体への負担も大きくなってくると考えられるのです。
自然妊娠の確率も大幅に落ちてくる年代なので、体外受精においても成功させることは、そう簡単なことではありません。
体外受精は、何回でも無限に行えるものではありません。
妊娠を強く望むからこそ踏み切る体外受精ですが、妊娠できるまで行えるわけではないのです。
体外受精は、母体に大きな負担がかかります。
そんな身体的負担を考慮して、体外受精は1年で4~5回までとされています。
自然妊娠の場合は、1カ月に1回、排卵されるので、年に12回の妊娠のチャンスがあります。
体外受精においても、このサイクルでいえば、12回のチャンスがありそうなものですが、実際はそうではありません。
なぜなら、体外受精1回につき、1~2カ月の休息期間が必要なのです。
これは、主に卵巣を休めるためとなっています。
体外受精では、より健康な卵子を採取するために、卵巣にも負担がかかってきます。
その負担が継続して続いてしまうと、大きなダメージとなってしまうこともあるので、休息期間が欠かせないのです。
体外受精において負担となるのは、体だけではありません。
体外受精にかかる費用も、大きな負担となることを忘れてはなりません。
1回の体外受精の費用は、約30~60万円ほどかかるとされています。
これが3回、4回、さらに5回、6回となると、かかる費用も膨大となってきます。
不妊治療ローンを組むという手もありますが、それでも大きな金額であることには違いありません。
妊娠に成功して子供が産まれれば、不妊治療ローンに加えて、子供を育てるためのお金も必要になってきます。
さらに、母親はしばらく子供につきっきりとなってしまい、満足な金額を稼ぐことは困難です。
そのため、妊娠前よりも生活は厳しくなってしまうことが予想されるのです。
そんな生活で、さらに不妊治療ローンの返済となると、これはかなり大変です。
これは、夫婦にとって大きなストレスとなることも少なくありません。
そんな費用面も考慮して、体外受精は期間と回数を、ある程度制限する必要があるのです。
体外受精は、不妊治療の一環として、国からの助成金が出ることがあります。
費用面の負担を、少しでも軽くするためにも、こうした助成金も使用していきたいところです。
しかしこの助成金は、何度でも受けられるわけではなく、適応される体外受精の回数が決まっています。
40~43歳までは通算3回まで、40歳までは通算6回となっているのです。
体外受精成功までの回数から見ると、少し不安な回数設定にも感じられるこの回数。
しかし、体の負担なども加味しての、国の基準とも考えられます。
ただし、自治体によっては、プラスαの金額が支給されることもあります。
この助成金の回数も、体外受精を受ける目安の回数として、おくとよさそうです。
体外受精は、回数を重ねることにリスクが伴います。
そんなリスクを回避するために、できる限りの工夫をしていきましょう。
体外受精では、卵巣から卵子を採取したり、子宮内へ受精卵を移植したりします。
その際、卵巣や子宮壁には針を刺す必要があります。
これは採卵にしても胚移植にしても、現在では避けては通れない道です。
そのため、少なからず卵巣や子宮壁にダメージが加わってしまいます。
もちろん、それほど大きな針ではありませんが、小さなダメージでも回数を重ねれば、負担は増大していきます。
すると、さまざまなトラブルのリスクが出てくるのです。
こうしたリスクを回避するためには、卵巣や子宮壁に負担の少ない針を使ってくれる、医療機関を選ぶことが有効です。
しかし、針の太さなどは、なかなか事前に調べることは困難です。
回数が増えてきたら、医師と相談してみるなどして、なるべく負担を減らしていくように努めましょう。
体外受精においては、さまざまな薬を使います。
たとえば、排卵誘発剤もその一つですが、より健康な卵子を採取するためには、排卵誘発剤の使用が欠かせません。
しかし、体外受精の回数が増えて、排卵誘発剤の投薬が重なると、卵巣過剰刺激症候群になってしまうリスクが増えてしまいます。
これは卵巣が腫れて、お腹などに水が溜まってしまう病気です。
これを回避するためには、卵巣予備能をよくみておく必要があります。
ただし、素人目に分かるものではないので、医師としっかり相談していきましょう。
体外受精の回数が重なっていくと、流産の可能性が高まるとされています。
これは、体外受精の回数が重なるとともに、年齢による卵子の老化が進むからということも、要因の一つとなっています。
体外受精に成功してせっかく妊娠できても、流産してしまっては大変悲しいものです。
しかし、加齢による卵子の老化は、防ぎようがありません。
そこで、体外受精には、早い時期からの取り組みを心掛けることも、リスク回避の道といえます。
なるべく早い時期から開始すれば、それだけ卵子も若く、健康な間に体外受精ができます。
すると、体外受精の回数も少ないうちに、成功する確率が高くなります。
また、生活習慣の見直しをすることも、リスク回避として有効です。
卵子の老化は、加齢以外にも生活習慣が大きく関係しているのです。
なるべく規則正しい生活をし、栄養バランスのよい食事をする。
そして、十分な睡眠をとり、ストレスをためないように気を付けていきましょう。
体外受精を受けるためには、まとまったお金が必要です。
金銭的な余裕がなければ、何回も体外受精は受けられません。
これは、夫婦にとっても大きなストレスとなってきます。
そのストレスは、卵子の質も精子の質も下げてしまう、大きな要因になりかねません。
そうはいっても、どうしても妊娠したいからこそ受けるのが、体外受精です。
そこで、助成金をしっかりと活用していきましょう。
助成金の内容は、自治体によって内容が少し変わってきます。
また、ローンなどもあるので、なるべく夫婦に負担とならない方法を探していきましょう。
体外受精の回数が増えるからといって、基本的に体外受精のやり方が変わるというわけではありません。
同じ体外受精のやり方を、何回も繰り返しているにすぎないのです。
こうした同じ条件下での体外受精が、体外受精の成功率を低下させている可能性も考えられます。
体外受精には、繊細で高度な技術が必要です。
しかし、病院による技術力が低ければ、それだけ体外受精の成功率も低いといえるのです。
そこで、何回か体外受精に成功できなかった場合は、転院も視野に入れていきましょう。
病院が変われば、施術するスタッフが変わります。
転院先のスタッフの腕がよければ、体外受精も成功しやすいといえるのです。
こうした病院選びには、インターネットでの下調べがおすすめです。
あらかじめ口コミなどをしっかりと調べて、なるべく評判のよい病院へ転院していきましょう。
体外受精で、簡単に妊娠に成功できるわけではありません。
自然妊娠と同様に、年齢によっても成功率は大きく変わってくるものなのです。
もちろん体外受精を受ける回数を重ねれば、それだけ成功率は高くなりますが、リスクを伴うものでもあるのです。
体外受精を受けるためには、夫婦である程度の回数の目処を立てておくとよさそうです。
これは、体の負担や金銭面の負担を考えてのことです。
もちろん助成金やローンを活用することも、大変有効です。
しかし、体外受精は無限に受けられるものではなく、回数を重ねればリスクも上がります。
だからこそ、夫婦であらかじめ、ある程度の回数を決めておくとよいです。
そうして、あらゆる可能性を探り、一番よい方法を見つけていきましょう。