「人工授精」という言葉のイメージから、自然妊娠とは全く違うもののように聞こえて、引け目を感じることはありませんか?
実は「人工授精」とは、自然妊娠に近い治療法のひとつなんです。
もちろん治療ですから、費用もかかってしまいますよね。
では、治療を受ける医院によって、掛かる金額は変わってくるのでしょうか。
この記事では、人工授精にかかる費用のあれこれについて、詳しく見ていきましょう。
人工授精とは、一般的にタイミング療法で妊娠しなかったときの「次のステップ」として位置づけられています。
ただし、人工授精は自由診療扱いとなるので保険適用外となります。
費用は全て自己負担となるのです。
そして、掛かる金額は治療の状況や医療機関によって異なってくるのです。
最初に申し上げた通り、人工授精は人工といっても自然妊娠にとても近い治療法です。
タイミング療法の次に行われる治療になります。
それではどのくらいの費用が掛かるものなのでしょうか。
人工授精は病院によって異なりますが、一回当たり2万円~3万円ほどになります。
人工授精とは、細いチューブで精子を女性の子宮、あるいは卵管へ直接、人工的に送り込む方法です。
卵子と精子の出会う確率を高めるものですが、卵子を子宮に入れたあとの授精・着床に至る流れは自然妊娠と同じ流れになります。
排卵から次の排卵までの1周期当たりの妊娠確率は10%未満。
4周期~5周期、つまり人工授精を4回~5回繰り返すと妊娠率は20%くらいまで上がります。
ただ、それ以上続けてもあまり人工授精による妊娠率は上がらないので、5回繰り返しても妊娠しない場合は次のステップ、体外受精に移るケースが多いようです。
10年以内に妊活経験のある「20~49歳までの女性」を対象にしたインターネット調査によると、妊活平均費用は35万円。
人工授精、体外受精、顕微授精を含む治療を経験した方の平均費用は134万円という結果になりました。
妊活費用の捻出方法については、夫婦の収入や貯金で負担しているという方が半数以上を占めています。
人工授精は通常妊娠とほとんど変わらないものです。
早く妊娠ができれば、治療費も比較的安くすみますが、妊娠できなければ、治療回数を重ねることになり、その分費用もアップしてしまうようです。
不妊治療は年齢が上がるほど難しくなります。
女性は年齢を重ねるとともに卵子が老化し、数と質が低下していきます。卵子の数は胎児のときの700万個をピークに、出生時には200万個、思春期ごろには約30万個まで減少するのです。
さらに1度の月経でおよそ1,000個の原始卵胞が減少するといわれ、年齢を重ねるごとにその数はますます少なくなっていきます。
通常は5回~6回で妊娠しない場合にはそれ以上人工授精を行っても妊娠する確率は非常に低くなるという論文が数多くあり、人工授精の次のステップ体外授精に進みますが、不妊期間が3年以上の場合や38歳以上の場合は3回ほどで体外受精に進むことを考えた方がよいといわれています。
その分費用も上がっていくのです。
そして、あまり知られていないのですが、年齢が上がるにつれて流産率も上昇していきます。
たとえ妊娠できたとしても、40歳では4割、45歳では5割以上もの確率で流産してしまいます。
早い年齢から不妊治療を始めた方が断然いいのです。
人工授精の治療自体は、2万円~3万円と意外と安いのですが、合計平均を見てみると思っている以上に費用がかかってしまいます。
なぜ費用が高くなるのでしょうか。
人工授精の費用が高くなる理由をみていきましょう。
検査の段階では保険が適用されることが多いですが、より正確に排卵日を特定するために、超音波検査の回数が、タイミング法にくらべて増える傾向があります。
また、月2回目以降の検査は保険適用外になることがおおく、費用の負担がアップします。
加えて排卵をサポートする薬や注射を使うと別途費用がかかります。
抗精子抗体検査を行ったり、内視鏡によって女性の子宮の様子を調べるための腹腔鏡検査を受けることになると保険が適用されません。
また、人工授精が一度で成功し、妊娠できればいいですが、何度も治療を繰り返すことになれば薬の量や種類をかえるなどその分料金もかかります。
人工授精は保険が適用されないため全て自費診察になります。
排卵誘発法とは、排卵に向けて、卵胞を発育させる方法です。
この排卵誘発法は数多くあり、薬や注射など病院によって変わってきます。
クロミッドやセキソビットなどの排卵誘発剤は飲み薬になります。
自然周期よりも、確実に卵胞を大きく発育させたい場合に用います。
注射の場合はFSH(遺伝子組み換えヒト卵胞刺激ホルモン)とhMG(下垂体性性腺刺激ホルモン)を数日間注射し、次にhCG(胎盤性性腺刺激ホルモン)を注射して排卵を促していきます。
この誘発法の使用にかかる費用は薬や注射の回数などに応じて異なります。
健康保険の適用対象となることもありますが、場合によっては一部自由診察となり、自己負担額が高くなるケースもあります。
排卵誘発剤を注射したり、採取した精液を顕微鏡で運動精子の数を確認し、培養液で洗浄し、運動性のよい精子のみ回収する際、濃縮した元気な精子を子宮に注入したりする際に技術料が加算される場合もあります。
また、男性側に原因がある場合、精巣から直接精子を採取することがあります。
医師が肉眼で行うものと顕微鏡下で行うものがあり、クリニックにより費用が大きく異なります。
この精巣内精子回収治療を行う場合、採取した精子の凍結保存費用なども必要になってきます。
人工授精では、洗浄した精子を注入しますが、子宮内感染予防のために服用する抗生剤や、着床率を高めるために黄体ホルモン補充療法などを数回にわたって行います。
これらを行うことによって費用がかさんでしまいます。
国には、経済的な負担を減らすため、自治体に指定された医療機関で不妊治療を受けた人を対象に、特定不妊治療費助成事業制度があります。
1回の治療にかかった費用に対して15万円までの金額を最大6回まで助成が受けられるというものですが、体外受精、顕微授精のみに対応しており、人工授精には対応していません。
この助成制度の対象にあてはまらないため全て自己負担になってしまうのです。
人工授精にとって必要な検査を見ていきましょう。
費用の目安も記載しておきますので参考にしてください。
不妊治療をする場合は治療内容にかかわらず抗精子抗体を含むスクリーニング検査を行います。
検査項目は、経腟超音波、基礎ホルモン検査、感染症・生化学検査、子宮卵管造影(HSG)、排卵期ホルモン検査、黄体期ホルモン検査、精液検査、その他などたくさんあり月経周期によってできる検査が決まっていて、1回ではすべての検査はできません。
1周期~2周期にかけて検査をおこなっていきます。男性は約18,000円、女性は約23,000円の費用がかかります。
AMH(アンチミューラーリアンホルモン)は発育途中の卵胞のまわりの細胞から分泌されるホルモンです。
このAMHの値を測定することで、あとどのくらい卵巣に原子卵胞が残っているか、卵巣予備能力がわかるとされています。
この検査費用に6,000円ほどかかります。
AMH値は、不妊治療を考える際にはとても使いやすく優れた指標になります。
AMH値が低い場合、残された時間があまりないということになります。
そのため、スピード感をもって治療をおこなわなければいけなくなります。
AMH値が低い場合は人工授精は2周期~3周期ぐらい試して、それでも妊娠しなければ早い時期に体外受精へステップアップすることになります。
不妊の原因が男性側にあるか調べる必要もあります。
不妊の原因は主に女性にあると考えられがちですが、40%~50%は男性側に原因があります。
1回の射精で得られる精液の量と、精液内の精子の状態を調べます。精子濃度や精子の運動量、奇形率などをチェックします。
男性の精液は毎日精巣内でつくられるため、日々のストレスや生活習慣などの影響をすぐに受けて状態が変わりやすいといわれています。
そのため、日数をおいて複数回検査を行いその結果を総合的に判断する必要があるのです。
不妊の原因は女性の場合もあれば、男性側に問題があるケース、両方に原因があるケースと人によって原因は異なります。
この検査費用は5,000円ほど。
不妊の原因の約半数は男性側に原因があると言われているため男性も検査をしましょう。
感染予防のため、いろいろな感染症検査を行います。
HBs抗原(B型肝炎の検査)、HCV抗体(C型肝炎の検査)、HIV抗体(エイズの検査)、RPR、TPHA(梅毒の検査)などです。
血液検査になりますのでおおよそ5,000円の費用がかかります。
その他、クラミジアlgA、lgG抗体検査、TSH、FT4、TgAb(甲状腺の検査)、風疹抗体、Rh(D因子)式血液型検査などを受ける場合もあります。
こちらの費用はおおよそ9,000円となります。
夫婦一緒に効率よく検査などを受け、早期に的確な治療を行いましょう。
不妊治療は早く行えば成功率が上がる可能性が高くなるので時間の短縮はとても重要です。
検査の回数を減らすことで費用も押さえることができます。
そのほかに費用を抑える方法を見ていきましょう。
1年間の間に自己負担した医療費が合計10万円を超えているとき、確定申告をすることで納めた所得税の一部が還付されます。
人工授精や不妊治療にかかった費用は、領収書があれば医療費控除として確定申告することができます。
もちろん通常の通院費や家族全員の医療費をまとめて合算できます。
病院で支払った治療費以外にも通院のために利用した交通費や、医師の処方箋により薬局で購入した医薬品なども含まれますので、忘れずに領収書またはメモを取るようにしましょう。
ただし、マイカーでの通院でのガソリン代や駐車場代は含まれませんので注意が必要です。
基本的に助成金は特定治療(体外受精・顕微授精)と言われる治療を受けた場合、国や自治体からお金を戻してくれる補助的な存在です。
一部地域では一般治療費や人工授精から助成金を受け取れる場合もあります。
たとえば、東京では品川区が平成18年4月から、東京都では平成29年10月から不妊検査などの助成事業を開始しておりますし、大阪では残念ながら特定治療(体外受精・顕微授精)の助成しかしておりません。
自分の住んでいる自治体で補助がうけられるかどうか、しっかり確認してみましょう。
また、東京都の助成を受けられるのにも要件があり、
・検査開始日に法律上の夫婦であること
(事実婚は対象になりません。)
・検査開始日に妻の年齢が35歳未満の夫婦であること
(夫の年齢は制限がありません。)
・検査開始日から申請日までの間、夫婦いずれかが継続して都内に住んでいること
・保険医療機関において、夫婦ともに助成対象の検査を受けていること
以上が条件となりますので、注意が必要です。
不妊治療はいきなり人工授精を行うわけではなく、最初は必ず検査から始まります。
何が原因なのかを調べたうえで夫婦力を合わせて二人三脚で取り組んでいくものです。
いろいろな検査があり、治療へと進んでいきます。
クリニックによっては、きちんと検査ごとに料金をHPで明示していますので、自分に合ったクリニックを選ぶようにしましょう。
生理3日目からFSH(遺伝子組み換えヒト卵胞刺激ホルモン)/hMG(下垂体性性腺刺激ホルモン)を注射し始め、卵胞が20mm程度に育つまで6本~7本打ちます。
卵胞の発育状況などをチェックするため、超音波エコー検査などを受けます。
そして卵胞が20mm程度まで育ったら、排卵誘発剤、hCG(胎盤性性腺刺激ホルモン)を注射して排卵を促します。
クリニックに通う回数を減らすために、自宅にいながら安心安全に自分で注射することができる「ペン型の在宅自己注射キット(細い針で痛みが少ない)」も開発されていますので、自分で注射にチャレンジしてみるのもよいでしょう。
不妊治療を始めると、必要な検査は大まかに分類しても、基本的な体の状態を調べる検査、排卵の問題を調べる検査、子宮の問題を調べる検査、卵管の問題を調べる検査、男性の検査、その他の検査といろいろな検査を受けます。
このほかにも状況に応じていろいろな検査がありますが、やみくもにすべての検査を受けるのではなく、医師と相談し、必要がないと思った検査は受けず、自分に合った検査のみを受けるようにしましょう。
助成や確定申告などで後から戻ってくるものもありますが、すべて先に支払うシステムになっています。
細かく計算していけば平均額の134万円ていどかかるとみていても、出産時に帝王切開やいろいろなトラブルがあって予想以上に費用がかかることもあります。
つまりは予想よりもっと多くの貯金が必要ということになります。
134万円というのはあくまでも平均値なので不妊治療から出産までの費用は余裕をもって準備しておいたほうがよいでしょう。