不妊治療の有効な手段のひとつとして、体外受精があります。
体外受精にはいくつかの方法があり、種類によって体の負担や薬の使用量はさまざまです。
この記事では、代表的な誘発方法や移植方法の特徴、体外受精の成功率を上げる方法を解説します。
体外受精は、不妊でお悩みの方に多く選ばれている治療方法です。
しかし、体外受精の種類や方法について詳しく知らないという方も多いのではないでしょうか。
体外受精は治療を受ける人の体質や症状によって、どの方法が適しているかは異なります。
さらに、体外受精は体に負担がかかることに加え、費用も発生します。
このような負担を減らすためにも、種類ごとの特徴や傾向を知り、自分にはどの方法が適しているかを考えてみましょう。
完全自然排卵周期法は、自然な月経周期に合わせて採卵を目指す方法です。
ホルモン剤を投与しないため、体への負担が少なく費用も安く抑えることができます。
月経周期から排卵日を予測し、卵胞チェックなどを通して採卵のタイミングを見極めます。
その際、採卵前に排卵されてしまうのを防ぐため、一時的に排卵抑制剤を用いることもあります。
1度に採卵できる卵胞はひとつであるため、受精や分割に失敗してしまうと、再度採卵しなくてはいけません。
連続周期採卵が可能ですが、安定した月経周期でないと採卵のタイミングが合わなくなるため、月経不順の方は行えないなどの特徴があります。
クロミフェン法は、クロミフェンという排卵誘発剤を用いて、卵胞育成を試みる方法です。
通常は、月経周期の3日目くらいから服用をはじめ、その後5日間くらい服用を続けます。
クロミフェンは、卵胞育成に必要なホルモンの分泌を促す作用があり、経口薬として処方されるのが一般的です。
また、脳の下垂体に作用して人工的にホルモンの分泌を促すため、一度に複数の卵胞を採卵することもできます。
排卵が起こりにくい体質の方や、体に負担が少ない誘発を希望する方に多く選ばれている方法です。
ショート法は、「アゴニスト」という排卵抑制剤を用いた誘発方法のひとつです。
ショート法は、大きく分けて排卵抑制と排卵誘発の2種類のホルモン剤を使用します。
排卵抑制により卵巣の機能を正常に保つホルモンの分泌を促し、排卵誘発により卵胞の発育を試みます。
月経がはじまる前後から排卵抑制剤の服用をはじめ、その後10日間ほど排卵誘発剤も併用しながら、卵胞を育てていきます。
投薬の影響によりホルモンが大量に分泌されるため、複数の卵胞が発育しやすく、採卵数を増やすこともできます。
比較的短期間で卵胞を育てることができますが、ホルモン剤などの影響により、体への負担が大きいのが特徴です。
ロング法も、先ほど紹介したショート法と同じく「アゴニスト」を用いた誘発方法のひとつです。
採卵予定の1つ前の月経周期中盤あたりから排卵抑制剤を投与し、その後20日間くらい服用を続けます。
排卵が抑制されたら次に排卵誘発剤を投与し、卵胞を育てていきます。
卵胞の育成をホルモン剤により調整するため、採卵日がコントロールしやすい方法として知られています。
また、複数の卵胞や均一な卵胞を育てやすいという特徴があります。しかし、長期間投薬する点や通院回数が多い点などを考慮すると、他の方法よりも費用が高くなる傾向にあります。
冷凍胚移植は、冷凍された受精卵を解凍して子宮内に移植する方法です。
子宮が移植に適さない状態のときに一定期間保管しておく場合や、複数回に分けて移植をおこなう場合にこの方法が用いられます。
一度採卵した卵胞を受精させて、複数日培養してから冷凍保存します。
子宮が移植に適した状態になったら解凍し、受精卵を移植します。
子宮が着床に適した状態になったときに移植するため、着床率が高く、流産する確率が低いという特徴があります。
しかし、冷凍・解凍する過程で受精卵が破損しやすくなるリスクがあることも理解しておきましょう。
単一胚移植は、1度の手術につきひとつの胚を移植する方法です。
初期胚移植や胚盤胞移植に代表される方法です。
初期胚移植は、採卵後の受精卵を2~3日かけて培養し、初期胚の段階まで成長させてから移植します。
胚盤胞は、採卵後の受精卵を5~6日かけて培養し、胚盤胞の段階まで成長させてから移植します。
胚盤胞移植は、自然妊娠した場合と同じような成長段階の胚を着床させるので、初期胚よりも着床に成功しやすくなります。
また、ひとつの胚を移植するため、多胎妊娠の予防につながります。
二段階胚移植は、同じ月経周期に2種類の胚を、2回に分けて移植する方法です。
通常、人の体は排卵すると、卵巣と子宮の間でシグナルを送り合い、着床に向けて子宮の準備をはじめます。
これと同じ状態にするために、1回目にシグナルの代わりとなる初期胚を注入して、子宮を着床に適した状態へと近づけます。
着床の準備が整ったら、2回目に胚盤胞を移植します。
こうすることで、自然妊娠をした場合と同じような子宮の状態にし、同じような成長段階の胚を着床させることができます。
ただし、二段階胚移植の場合は複数の胚が必要になることや、多胎妊娠のリスクが伴うことに注意が必要です。
ピルには、卵胞ホルモンと黄体ホルモンに似た働きをするふたつの成分が配合されています。
これらのホルモンは排卵後に多く分泌されるため、体内での濃度が高くなると脳が排卵後であると勘違いし、排卵が起こらなくなります。
排卵が止まると、一時的に卵巣を休ませることができるため、卵巣機能を回復させることができます。
月経不順はホルモンバランスの乱れや、卵巣機能の低下が原因だといわれています。
卵巣が正常に機能することで、規則的な月経周期の改善につながり、排卵日が予測しやすくなる効果が期待できます。
黄体ホルモンは、通常排卵後に多く分泌され、妊娠の過程において欠かせないホルモンです。
主に子宮の内膜を厚くしたり、子宮の状態を整えたりする作用で、子宮を着床に適した状態へと近づけます。
体外受精における投薬の影響で、ホルモンバランスが安定していない場合などに、不足した黄体ホルモンを補うことで、妊娠しやすい体へと近づけます。
投薬の方法は、注射や内服薬が代表的です。
注射の場合は、血中濃度が安定しやすい筋肉への注射を定期的におこないます。
注射や通院が難しい場合は、自宅でも簡単に服用できる内服薬でホルモンを補いましょう。
体外受精を選択する理由のひとつに、男性不妊があります。
男性不妊の多くは、無精子症などに代表される造精機能障害が原因とされています。
造精機能障害とは、精子がうまく製造されなかったり、精子が卵巣までたどり着くことができないため、自然な妊娠が難しい状態です。
そんな男性不妊の場合に多く選ばれている方法が、顕微授精です。
顕微授精とは、顕微鏡を見ながら1つの精子をひとつの卵子に受精させる方法です。
多くの精子を必要としないため、造精機能障害でもおこないやすい点や、手作業でおこなうため、受精に失敗しにくいなどの特徴があります。
しかし、針の先端で注入する際に、卵子が壊れやすくなるという側面もよく理解しておきましょう。
体外受精の誘発方法と移植方法、成功率をあげる方法についてご紹介しました。
誘発方法には、投薬をおこなわない完全自然排卵周期法と、投薬をおこなうショート法、ロング法、クロミフェン法があります。
完全自然排卵周期法は体への負担が少ない反面、一度に採卵できる卵胞はひとつのみという特徴があります。
投薬をおこなう方法は、複数の卵胞採取が可能ですが、ホルモン剤の影響を受けやすく、体に負担が大きいのが特徴です。
移植方法には、ひとつの胚を移植する単一胚移植と、ふたつの胚を移植する2段階胚移植があります。
単一胚移植の場合、子宮が着床に適する状態になるまで胚を冷凍保存する、冷凍胚移植を並行しておこなうこともあります。
単一胚移植と2段階胚移植のいずれにおいても、自然妊娠した場合と同じような成長段階の胚を移植することで、妊娠の成功率を高める工夫がなされています。
体外受精にはさまざまな方法がありますが、どの方法を実施するかは病院やクリニックによって異なります。
また、母体の健康状態や子宮の状態によっても治療法は異なるため、状況に応じて最適な治療法を選択する必要があります。
不妊治療を検討する場合は、この記事で紹介した体外受精の方法を参考にしながら、自分に合った治療法と主治医を見つけるようにしましょう。