一般的には着床率が高いといわれる体外受精ですが、妊娠につながらない場合も多くあります。
着床率低下について考えられる原因を挙げ、最適な治療法選びと、着床率向上のために自分で実践できるコツをアドバイスします。
ぜひ治療の際の参考にしてみてくださいね。
着床率が5~10%の人工授精と比べ、体外受精の着床率は20~40%と高い数字になっています。
体外受精のうち、顕微授精になるとさらに確率は上がるとされます。
しかし、体外受精でも妊娠に至らないケースは多々あります。
着床率を上げるために選べる治療法や、自分で気を付けるべきポイントを見ていきましょう。
受精し分裂した卵=胚を子宮へ移植する体外受精。
着床がうまくいかない場合に、考えられる理由とは何なのでしょうか。
着床しない一番の原因は、胚、すなわち受精卵にあるといわれています。
精子か卵子、またはその両方の質に問題があり、妊娠に至らないのです。
精子や卵子の質の悪化には、年齢による老化が大きく関係しています。
体外受精における妊娠率が最も高いのは20代で、40%です。
33歳までは確率にそれほど変化はないとされますが、34歳以降から徐々に妊娠率は下がり始め、38歳で30%、40歳では20%と20代の半分にまで落ち込みます。
さらに45歳では5%と、40代における妊娠率の下落は顕著です。
また、暴飲暴食や寝不足、喫煙などの生活習慣によって、精子・卵子の質が悪くなることもあります。
精子や卵子に問題がなくても、卵管や子宮の状態によって妊娠しにくくなることがあります。
子宮の筋肉に良性の腫瘍ができる子宮筋腫や、子宮内膜に似た組織が子宮以外の場所で増殖してしまう子宮内膜症などは、着床が困難になる原因として代表的なものです。
卵管狭窄(きょうさく)または閉塞があると、精子や卵子、受精卵が通過する際に障害となり、やはり不妊の要因になります。
その他、子宮の状態を悪化させる要因には加齢があり、35歳以上の妊娠率悪化の一因となっています。
着床や妊娠継続において重要な黄体ホルモンが、十分に分泌されていない状態を「黄体機能不全」と呼びます。
着床障害や初期流産が起こる確率が上がり、妊娠しにくい環境となっています。
黄体ホルモンが不足する原因として、喫煙や飲酒、ストレス、肥満または痩せすぎなどが挙げられます。
注射や服薬などで黄体ホルモンを補充し、治療するのが一般的です。
着床率を上げるために、自分にとって最適な治療法を選びましょう。
採卵のために卵胞を成熟させ排卵を促す誘発方法には、いくつかの種類があります。
着床率を上げるためには卵子の質を向上させることが重要ですが、最適な方法は人によって変わります。
卵巣を薬剤で刺激する刺激法は、一度で複数の卵子を採取できることが大きなメリットですが、ひとつひとつの卵子の質が落ちる可能性があるとされます。
卵巣への負担も大きいため、採卵できない周期が増えます。
刺激法の中でも低刺激と高刺激があり、いくつかの方法を状態に応じて組み合わせて行う病院もあります。
自然周期での採卵は、一度で1つの卵子を採取しますが、質のよい卵子である場合があります。
刺激法に比べ体への負担が軽いこともメリットです。
一方で、卵胞が空であったり、採卵前に排卵してしまうことがあるなどデメリットもあります。
それぞれの利点やリスクを確認して、自分にとってよりよい方法に切り替えることも検討しましょう。
子宮筋腫や内膜症は、手術で治療することができます。
これらの病気は程度の差が著しく、妊娠の障害になる場合と、影響はない場合があります。
治療法も多岐に渡ります。
体外受精を優先するのか、手術を行うのか。
年齢や状態に応じて医師が適切に判断するので、しっかりと説明を受け、理解したうえで今後の治療について考えましょう。
体外受精で成果が得られない場合に、胚の移植方法を変えるという手段があります。
自然妊娠や人工授精の場合、卵管で受精した受精卵は分裂を続けながら5~6日かけて子宮へ向かい、その間は子宮へ向け妊娠準備をするようシグナルを送っています。
そうして準備が完了した子宮に到着する頃には、受精卵は初期胚から胚盤胞(はいばんほう)と呼ばれるステージに育っています。
体外受精において、採取した卵子と精子を受精させたあと、培養液の中で2~3日かけて胚を育成してから移植するのが「初期胚移植」です。
しかし、本来あるはずの妊娠準備のシグナルもなく、胚盤胞の段階でもない初期胚を移植しても、妊娠率は20~30%と、それほど高くありません。
胚を5~6日培養してから行う「胚盤胞移植」では、妊娠率は50%ほどとなりますが、やはり妊娠準備のシグナルがないので着床が難しいケースがあります。
そこで試されるのが「二段階胚移植」です。
まず初期胚を移植し、その後、培養を続けた胚盤胞を追加で移植します。
初期胚を移植することで子宮内で着床の準備が開始され、追加された胚盤胞の着床率が上がるのです。
ただ、複数の胚を移植するため、多胎妊娠の可能性があります。
多胎妊娠を避けるために考案されたのが、初期胚の代わりに胚の培養液を注入したのち、胚盤胞を移植する「SEET(シート)法」です。
このようにさまざまな選択肢があるので、医師に相談してみましょう。
着床率向上のために、自分で出来ることもあります。
そのコツやポイントを見ていきましょう。
妊娠しやすい健康な体は毎日の食事から。
妊娠する力=妊孕力(にんようりょく)を高めるために、積極的に摂るべき栄養素を知っておきましょう。
良質な卵子を作るにはたんぱく質です。
細胞の増殖にも必要な栄養素なので、受精卵の正常な細胞分裂や胎児の成長に不可欠です。
肉や魚、大豆、乳製品、卵などから、偏りなくいろいろな種類のたんぱく質を摂取してください。
ビタミンEは排卵を促進する働きがあるほか、着床をサポートする女性ホルモン「プロゲステン」の材料になります。
さらに高い抗酸化作用で卵子の老化を防ぐなど、妊娠において重要な役割を持ちます。
ほかにも、亜鉛や鉄分などのミネラル、葉酸などのビタミンB群、ビタミンDなどが、妊孕力を高める栄養素として知られています。
食生活を見直すとともに、それぞれの摂取量の目安や上限を確認したうえで、サプリメントも活用してみましょう。
妊活中にストレスをためるのは避けてください。
ストレスは自律神経の乱れを招き、ホルモン分泌に異常が出る可能性が高いです。
妊娠に不可欠な黄体ホルモンが不足すると、着床率は下がってしまいます。
好きなことをしてリラックス、軽い運動で体を動かす、おいしいものを食べて笑う。
小さなことでいいので、週に一度はストレスを発散して心を穏やかに保ちます。
そして治療自体がストレスにならないよう、夫婦でよく話し合いながら続けていきましょう。
妊娠におけるたばこの害はよく知られています。
非喫煙者と比べて、喫煙者は妊娠率が低下するだけでなく、妊娠の継続が困難となり初期流産の確率が跳ね上がることがわかっています。
また、体外受精の成功率も著しく低くなります。
アルコールは、飲みすぎによる妊娠率の低下が報告されています。
飲みすぎの定義は個人差が激しく明確にはできませんが、妊活中の不安要素はできるだけ取り除いておくのがよいでしょう。
またアルコールには利尿作用があり、体を冷やすこともあります。
冷えは妊娠の大敵なので、やはり飲酒は避けるのが賢明です。
これらは女性だけでなく、男性側にもいえることです。
たばこやアルコールは精子の劣化を招くとされます。
禁煙と禁酒を、夫婦で始めてみてください。
夜更かしや寝不足は、ぜひ改善したい習慣です。
しっかりと睡眠をとることで、自律神経が整い、細胞の修復も活発に行われるようになります。
自律神経はホルモンバランスの調整に深く関わっていて、妊娠率にも影響します。
睡眠中に体中の細胞の修復を行うのが「メラトニン」というホルモンです。
22~26時に最も分泌量が増えるので、早めの就寝を心がけてください。
明るい部屋では分泌されにくいため、照明は落としましょう。
そしてメラトニンの元になるのが「セロトニン」。
日中に体を動かし、日光を浴びることで分泌が促進されます。
質のよい睡眠をとるためには、毎日をアクティブに過ごすことが大切です。
治療の成功には健康が不可欠です。
生活習慣を見直して、妊娠しやすい体作りを実践していきましょう。
ただし、気にしすぎは禁物。
バランスを取るのはなかなか難しいことですが、生活が少し乱れてしまったからといって、イライラしたり落ち込んだりするのはやめて、ゆったりと過ごすようにしてくださいね。
妊活中は、ストレスフリーを心がけましょう。