体外受精の際に卵子を採取する方法のひとつ、ショート法。
利点は多いとされますが、向き不向きがあり、リスクをきちんと理解しておくことが大切です。
メリットとデメリット、医師の説明を踏まえ、自分に合った方法を選んでくださいね。
「ショート法」は、一度の採卵で良質な卵子を複数個採取するために、薬で卵巣に刺激を与える刺激法のひとつです。
排卵抑制剤を投与して短い期間で卵胞を成熟させ、次に排卵誘発剤を使用して排卵を促し、採卵します。
排卵をコントロールが出来るため、治療のスケジュールが立てやすい採卵方法となっています。
長期に渡り通院する必要がないなどメリットがある一方、いくつかデメリットもあるので、採卵方法を選択する際にはきちんと把握しておきましょう。
ショート法を選んだ場合の利点を挙げていきます。
ショート法の基本的なスケジュールは、月経の2~3日前から点鼻薬や注射によって排卵を抑制し、卵胞の成熟を促します。
10日前後経って、卵胞が十分に育ったと医師が判断した段階で排卵誘発剤を投与。
標準的に24~36時間後に排卵が起こるので、翌々日に採卵します。
超音波で卵胞の状態を調べるため通院は必要ですが、投薬期間が短いのが特徴です。
その他の採卵方法よりも治療が短期間で済み、ロング法などと比べると注射の回数も少ないので、身体的、精神的、経済的な負担が軽減されるといわれています。
卵胞が1つずつ成熟する自然周期での採卵と違い、ショート法は薬で複数の卵胞の発育を同時に促すため、一度に数個~数十個の卵子を採取できるのが利点です。
卵子は、排卵されたからといって必ずしも「良質な卵子=妊娠できる卵子」であるとは限りません。
健康に問題のない若い女性で、妊娠可能な卵子ができる確率は4分の1といわれています。
一度の採卵で多くの卵子を採取できたほうが、良質な卵子がある確率は上がりますよね。
ショート法など、投薬で排卵をコントロールした場合の採卵一回あたりの出生率が、自然周期採卵よりも高いのはこのためです。
卵子が多く採れた場合、良質なものを選別して治療に使用するほか、凍結して残しておくことも可能です。
治療のたびに採卵しなくても、凍結保存しておいた受精卵を使って治療に臨めます。
凍結卵が多いと採卵一回にかかる費用は高くなりますが、採卵回数が減るのでトータルでは安く済む場合もあります。
また、体外受精の治療で、注射と並び苦痛だといわれるのが採卵です。
作業自体は数十秒でも、治療のたびに行うのはストレスです。
採卵の回数が減ることは、大きなメリットといえます。
覚えておきたいショート法のデメリットです。
きちんと理解した上で選択するようにしてくださいね。
排卵を抑制して複数の卵胞の熟成を促す排卵抑制剤の注射を、毎日打ち続ける必要があります。
病院や自宅で、腹部に皮下注射を行います。
注射の種類や投薬量は年齢やホルモンの状態によって変わり、医師が適切に判断するので、治療成功のためには必ず投与しなければなりません。
注射のためだけに毎日通院するのは時間的、精神的にも負担です。
自己注射の場合、病院でやり方を指導してもらいますが、毎日自分で腹部に針を刺すことになります。
自然周期法以外の方法を選んだ場合には、避けられないデメリットとなります。
薬剤を使用して卵巣に強い刺激を与えるため、「卵巣過剰刺激症候群」になるリスクがあります。
卵巣の腫れ、腹水、胸水などが起こり、下腹部の痛みや腰痛、吐き気、排尿困難などの症状が現れます。
卵胞の育成に時間がかかり排卵しにくい「多嚢胞性(たのうほうせい)卵巣症候群」や、10個以上の成熟卵胞ができた場合になりやすいとされています。
妊娠を考えると治療法も限られているため、治療中に体の不調が出たときは、重症化する前に医師に相談する必要があります。
ショート法は刺激法のうち、最も強い刺激を与える方法です。
卵巣機能がやや低下していて、強い刺激が必要な場合によく選ばれますが、適応される条件は「卵巣がある程度の機能を保っていること」です。
卵巣機能がかなり低い場合、排卵の抑制が効きすぎて逆に卵胞が発育しにくくなります。
卵巣の機能が低下している状態を「卵巣機能不全」と呼びます。
卵巣が正常に働かないことでホルモンバランスが乱れ、生理不順や排卵障害が起こるといわれます。
卵巣機能不全の原因ははっきりとは分かっていませんが、ストレスが大きな要因とされます。
ストレスで自律神経が乱れて脳下垂体の働きが鈍り、卵巣機能を調整・保持する性腺刺激ホルモンの分泌がうまく行われなくなるのです。
また高齢でも卵巣の機能は低下するといわれます。
ショート法は、卵巣機能がある程度以上に保たれている場合に適している方法です。
適していると考えられた方法でも、妊娠につながらないことがあります。
ショート法以外にも選択肢があることを知っておきましょう。
投薬をほぼ行わず、自然の周期に任せて排卵を待ち、採卵する方法です。
採卵前に排卵してしまうことを防ぐため排卵抑制剤を注射することはありますが、回数が少ないため、身体的、精神的、経済的に負担が軽いのが特徴です。
卵巣を休ませる必要もなく、連続周期での採卵が可能になります。
デメリットは、採卵数が少ないことが挙げられます。
自然周期では、一度の採卵で得られる卵子は1つなので、採卵しても胚移植が行えないことも起こり得ます。
そして妊娠につながらなければ次の周期を待つことになり、治療が長期に渡る可能性があります。
また自然周期法は、月経周期が不順な場合は選択できないので注意してください。
採卵方法には多くの種類があるので、状態に応じて切り替えることができます。
採卵のための準備に長い時間をかける「ロング法」は、ショート法と同じ刺激法のひとつです。
排卵日をコントロールしやすいという利点がある一方、投薬期間が長くなるので、卵巣過剰刺激症候群のリスクが刺激法の中で最も高いといわれます。
ホルモンを完全に抑制してから排卵を誘発する「ウルトラロング法」、卵胞が発育しやすい「HMGセトロ法」、内服と注射で行う「HMG-MPA法」など、他にも選択肢は存在します。
医師からそれぞれのメリットとリスクの説明を受け、自分に合った採卵方法を探しましょう。
体外受精など高度生殖医療を行い妊娠が成立しない場合、黄体ホルモンが不足している「黄体機能不全」である可能性があります。
黄体ホルモンは卵巣から分泌され、子宮内膜の環境を整えたり妊娠の継続をサポートする物質です。
黄体機能不全では着床障害や初期流産が起こる確率が上がります。
黄体ホルモンを内服や注射で補充することで、妊娠しやすい状態になるよう治療します。
ホルモン値に異常がなくても、妊娠率を上げるため、採卵当日から胚移植を経て妊娠判定までの2週間ほど、毎日黄体ホルモンを補充する病院もあります。
それほど、黄体ホルモンは妊娠にとって重要な存在なのです。
ショート法は数ある採卵方法のうちのひとつです。
医師は患者の体の状態や生活スタイルを考慮に入れて、最適と思われる方法を提案してくれます。
説明をよく聞き、メリットとデメリット、リスクを理解して治療に取り組んでくださいね。
そしてうまくいかなかった場合には再度医師と相談し、他の方法も柔軟に選択していきましょう。