2018.06.09

「顕微授精」にリスクはある?障害や先天性異常の可能性は?

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現在、日本では6組中1組が不妊治療を受けているほど、不妊と診断せれる夫婦が増えています。

「顕微授精」は、妊娠率が高いことから、通常の不妊治療ではなかなか妊娠に繋がらなかった夫婦に注目されていますが、精子を確実に卵子に注入できることから受精率が高いというメリットの反面、メリットだけではないこともしっかりと知っておきましょう。

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顕微授精にはリスクの可能性がある

体外授精で受精が成立しない場合に行う

顕微授精を実施するのは、体外授精が成立しなかった場合と体外授精をしても成立する確率が低い場合です。

成功する確率が低いというのは、精子濃度や運動量が低く、卵子と一緒にしても受精が成立しない可能性が高いということです。

通常の不妊治療から体外受精等の高度生殖医療を受けてもなかなか妊娠ができなかったり、精子に不妊の問題がある、または女性の体が精子を拒絶する抗精子抗体を持っていて精子を体内に入れられない夫婦に実施される、いわば最後の手段といえます。

ガラス針を使用して人工的に受精

通常の体外授精では、卵子の入った培養液に精子を加えて受精をさせますが、顕微授精は卵子に直接ガラス針を刺して一体の精子を注入します。
その際に選ばれる精子は運動精子回収法により、運動量の高いものと低いものに分けられ、更に顕微鏡で観察しながらより運動量の高い精子の一つだけです。

1.質の良い卵子を作る

まずは、受精後もちゃんと育ってくれる良い卵子を作ります。
卵子を取る前にホルモン注射でしっかりと卵子を発育させます。
顕微授精は卵子に直接ガラス管針を刺すので卵子の細胞膜に傷がつき、卵子が変形してしまう可能性があるので、傷がつかないような強い卵子が必要です。

2.卵子・精子の採取

卵子が十分に育ったら卵子を採取します。良質な卵子がいくつかできた場合は選定し、その中から最も良質なものを選んで受精させます。
精子も顕微授精のタイミングに合わせて採取します。

3.授精・培養

卵子を固定し、そこへ精子を1体だけ入れたガラス針を刺して精子を注入します。
受精に成功したらあとは体外授精と同じで受精卵を培養させ、細胞分裂の経過を観察するようです。

4.胚移植

無事に発育したら、初期胚(受精後2~3日)または胚盤胞(受精後5~6日)の状態に時に体内に戻します。
初期胚よりも胚盤胞の状態の方が着床率が高いと言われていますが、胚や子宮の状態を見て移植をするので、初期胚を移植する場合もあるようです。

5.妊娠検査

胚移植を行ってから2~3週間経ったら、再度クリニックに行き血液検査や尿検査にて妊娠しているかどうか判定をします。

顕微授精のリスク

自閉症スペクトラム障害の可能性

自閉症スペクトラム障害とはコミュニケーションと取ったり、社会に馴染むことなどに困難を伴う発達障害全般のことをいいます。

「顕微授精等の生殖補助医療で生まれた子は、そうでない子に比べて自閉症スペクトラム障害になるリスクが2倍」ということがアメリカの権威ある学術誌に掲載されました。

これは1997年~2007年までの590万件という米疾病対策センターの大規模な調査により示されました。

しかし、米コロンビア大学の教授は「IVFと自閉症には関連がみられたが、年齢や学歴など、体外授精を利用する確率が高い女性の特徴を考慮すると、その関連は大幅に弱まった」とも発表しています。

体外授精そのものと自閉症スペクトラム障害の因果関係ははっきりとはしませんが、情報の一つとして顕微授精を検討している方には知っておいた方がよいでしょう。

先天異常率が自然妊娠に比べて有意に高い

欧米では、顕微授精児の先天異常率が自然妊娠に比べて有意に高いという論文がいくつか発表されています。

顕微授精では1体の精子があれば授精が可能です。

しかし問題は、その1体の精子がDNAが損傷していない精子かどうかわからないことです。

運動性の高い精子は健康な精子という世間の認識とは違い、運動性の高い精子の中にもDNA損傷の精子も含まれています。

2009年には日本婦人科学会でも、「精子数や運動率は必ずしも精子の質を直接反映するものではない」と発表しています。

しかし、いまでも顕微授精を行っている不妊治療病院では精子の数、運動率、頭部形状等をWHO基準で評価をしています。

出生時体重が増加する傾向がある

厚生労働科学研究費補助金によるART(顕微授精などの生殖補助医療)出生時に関する大規模調査が行われ、顕微授精や胚盤胞培養等の人工的な操作が加わると、出生時の体重が増えることが報告されました。

ART児の体重増加の原因は「ゲノムインプリンティング異常」の可能性が高いとされています。

ゲノムインプリンティング異常とは、遺伝子の働きを調節する仕組みに異常が出ることで、マウスにおいては妊娠中の発育遅延や習慣性流産もこれが要因とされています。

顕微授精の問題点

注入する精子の質を判断できない

「先天異常率が自然妊娠に比べて有意に高い」でもご説明しましたが、顕微授精の場合は1体の精子があれば施術が可能ではありますが、その精子が優良な精子であるかどうかは判断ができないようです。

世間の認識では、運動性の高い活発な精子が優良な精子であると考えられていますが、どんなに活発で形状の良い精子でもDNAが損傷している可能性もあるそうです。

リスクについての説明が不十分

不妊治療クリニックのほとんどは顕微授精で起こりうる先天性異常や自閉症等のリスクを十分には説明してくれません。

十分どころか「安全です」「何も問題はありません」と進めてくるクリニックも多いといいます。

もともと日本では、顕微授精でのリスク自体あまり報道されておらず、リスクを十分に説明する法律等も無く極めて曖昧なガイドラインがあるだけのようです。

逆にいえばリスクについてしっかりと説明をしてくれるクリニックは、信頼できるクリニックだといえます。

メリットばかりでデメリットの説明をしないクリニックには注意した方がよいでしょう。

顕微受精の中でも安全性が高いケース

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正常精子の比率が高い場合

年齢とともに精子も老化することをご存知でしょうか。

男性も45歳を過ぎると精巣が老化し、そこで作られる精子も運動性が低くなり量も減り、更にDNA損傷精子の数も増えてしまいます。

したがって、運動性の高い活発な正常精子の比率が高いとDNA損傷精子の数も減るため、安全性が高いといえます。

しかし、数が減るだけでDNA損傷精子がいないというわけではないようです。

体に無数に存在している細胞は損傷したDNAを修復する機能(DNA修復機構)が備わっていて、細胞自らDNAを修復することで体が正常に保たれています。

そのDNA修復機構は卵子には備わっていますが、精子にはありません。

したがって、精子が生成される際になんらかの理由でDNAが損傷した場合にそれが修復されずに卵子に届いてしまいます。

自然妊娠の場合は、DNAが損傷している精子だとしても卵子にDNA修復機構があるので受精後に精子のDNA損傷を卵子が修復してくれます。

しかし、顕微授精等の体外授精は受精卵が体外の培養液中なので、体外にいる場合にどこまでDNA修復機構が働くかは不明です。

高度な精子分離技術を持つ施設で行う場合

通常精液の中から受精に使う精子を選ぶ際、パーコール法やスイムアップ法を用いて選別をします。

パーコール法:

精子調整用薬に精子を注入し、遠心分離器にかけます。
そうすると精子中の死滅精子や白血球や細菌が取り除かれて運動率の高い精子だけ残ります。

スイムアップ法:

精子またはパーコール法によって選別された精子の上に培養液を注入してしばらく置いておくと、更に運動率の高い元気な精子が上に上がってきます。

しかし、上記の選別法だけでは運動率の高い精子は選別できても本当に優良な精子かどうかは分かりません。

運動率が高くてもDNA損傷精子は存在しますし、逆に動きの鈍い精子の中にも正常な精子はたくさんいるようです。

見た目だけではDNAが損傷しているかどうかは分かりませんが、高度な精子分離技術で精子を優良かどうか選別できる施設もあります。

施設の数は極めて少なくはありますが、日本にも数か所設備の整っているクリニックがあります。

顕微授精を受けようと思うなら

正しい知識を身につける

顕微授精には、リスクがある場合もあります。

更にはクリニック側から十分な説明も受けられない可能性もあります。

顕微授精を検討中の方はクリニックからの説明に頼らずに施術方法や治療内容、障害の発生率等、情報を収集し知識を身に着けてから望みましょう。

不妊治療においてクリニックは、パートナーともいえる大事な存在です。

クリニックを選ぶ際には、顕微授精についてメリットとデメリットの両方をしっかりと説明をしてくれるクリニックを選びましょう。

規則正しい生活を心がけ体を整える

不妊の原因は元々の体質だけが原因というわけではありません。

日々の生活リズムの乱れや睡眠不足、ストレス等も立派な不妊の原因の一つです。

生活リズムが乱れて体調を崩している時は、体に備わっている妊娠力が低下し妊娠しにくい体になっています。

規則正しい生活習慣を日々心掛けるだけでも、妊娠力の上昇に繋がります。

ストレスの内容は仕事のことや人間関係、親族からの妊娠に対するプレッシャー等人それぞれです。

妊娠のプレッシャーは特にデリケートな部分であり、不妊治療をしていく上で一番辛いものかもしれません。

そのストレスも少しでも軽くなるよう、パートナーの方と話し合いましょう。

また妊娠前に体作りとして葉酸を取るようにしてください。

妊娠中に葉酸を取った方が良いことは有名ですが、妊娠前にも葉酸を取ることで赤ちゃんの先天的な奇形(神経管閉鎖障害)のリスクを下げることができるということが分かっています。

顕微授精のリスクを知って判断は慎重に

顕微授精は、他の不妊治療で妊娠できなかったカップルにとっては、受精率の高い希望の光といわれています。

しかし、受精率が高い半面、障害や先天性異常のリスクも自然妊娠に比べて高くなります。

そのリスクを知らずに、クリニックに勧められるまま施術をしてしまう方もいらっしゃるようです。

決して顕微授精が悪いということではありません。

顕微授精によりこの世に生まれてこられた元気な赤ちゃんもたくさんいるようです。

これから顕微授精をされる方、検討中の方は受精率等の良い情報だけでなく、リスクのこともふまえて施術するかどうか判断をするようにしましょう。

妊活部編集スタッフ
この記事のライター 妊活部編集スタッフ

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