鍼治療への一般的なイメージは、
「中国鍼は太くて痛い」
「日本鍼は細くてあまり痛くない」
というものです。
これは、日本と中国の、鍼治療に対する考え方の違いが大きく影響しているようで、中国鍼であっても、日本鍼のような細い鍼を使用するケースもあるようです。
鍼治療で使われる鍼の太さは0.15~0.25mmで、髪の毛とあまり変わらない太さです。
ですから、出血することもほとんどありませんし、鍼の痕が残るということもありません。
では、なぜ中国鍼は「太くて痛い」というイメージなのでしょうか。
その疑問に迫ってみました。
鍼治療は、中国で発達してきた治療法で、その歴史は古代中国の春秋戦国時代とも、それ以前ともいわれています。
日本に伝わってきたのは奈良時代で、医療の補助目的や、民間療法として広まってきました。
しかし、中国では、古代から医療の一分野を担ってきた歴史があります。
そのため、鍼治療の一番の目的は治療効果であり、鍼1本の刺激量も日本と比べるとかなり違うようです。
また、鍼の刺激に対する感覚でも、日本人と中国人では大きく異なり、治療のためには多少の痛さは我慢するという国民性の違いもあるようです。
つまり、中国鍼は医療の一分野として広まり、日本鍼は、民間療法・代替療法として、穏やかな効き目を追い求めてきたことの違いがあるようです。
病の原因となっている部位や経絡上の経穴に、鍼で刺激を与えることで、血流の滞りを改善し、体内のバランスを整えるということでは、中国鍼も日本鍼も変わりがありません。
しかし、医学が進み、医療保険制度も充実している日本で、あえて痛みの強い鍼治療を選ぶ必要性が見当たりません。
日本では「痛くない穏やかな効き目」が、鍼治療の目指すところです。
それでも鍼を打つことに抵抗のある方もいます。
最近は、鍼を打つのではなく、電気を当てて刺激する電気鍼もあります。
痛みも無く、鍼の痕も残らないので、どうしても鍼を打つことに抵抗がある方向けの、ソフトな鍼治療といえるでしょう。
医療の一分野として発展してきた中国鍼は、東洋医学の精神が基本ベースになっています。
西洋医学では、細胞の組織や器官はそれぞれ独立していると考えますが、東洋医学では、人も自然の一部であり、人体の仕組みも自然の中の一つとみなしています。
そのため「陰陽五行説」に基づき、診断をしていきます。
医療の一分野として発展してきたのは、中国の広大な地理的要因も、少なからず影響しているようです。
危篤状態に陥っても、近くに病院がない地域は、今でも数多くあります。
鍼治療も、日本のように穏やかな効果を追求するのではなく、強い刺激を与えることでの治療の成果が、より求められてきたはずです。
そのため、中国鍼は、腰痛や冷え性、肩こりなどのデリケートな治療には、刺激が強過ぎると指摘する鍼灸師もいます。
鍼治療を受けたことのない人が真っ先に抱くのは、鍼への恐怖感です。
いくら治療のためとはいえ、できれば痛い思いはしたくありません。
それでも鍼治療を受けようと思うなら、できるだけ刺激を少なくした「痛くない穏やかな効き目」を追求している、日本式の鍼治療をから始める方がよいでしょう。
多少刺激がソフトでも、適切なツボを刺激することで、徐々に改善されていくはずです。
大切なのは、体調不良の原因が何か、それを改善するツボがどこか、それを的確に判断してくれる鍼灸師に出会うことです。
もし出会えたなら、中国鍼であろうと日本鍼であろうと、きっとあなたの望む結果が得られるに違いありません。